世界に仲間を増やして仕掛けるひと
前川 昇平(まえかわ しょうへい)
M.SC
専門分野:行動生態学
前川昇平(まえかわ しょうへい:Shohei Michael Maekawa)さんは、アメリカで生まれ、イタリアで育ち、イギリスで研究を学んできた。世界をまさにボーダーレスに捉える彼の歩く先は今、イギリスに向いている。そんな前川さんが初めてリバネスを訪れたのは学部生のときだった。リバネスに何を期待し、そして参画したのか、詳しく聞いてみることにした。
(聴き手:佐野 卓郎)
佐野:そういえば、入社する以前にインターンシップに来ていましたよね?
前川:はい。リバネスの本社がまだ四谷にあった頃です。当時はUniversity College London(UCL)の学部生だったのですが、イギリスの学生って夏休みが3〜4ヶ月あるんです。みんな暇なので、インターンシップをするんですね。
私は昔から自然が好きで、大学では行動生態学を学んでいましたから、自然科学系のインターンシップを探していました。
佐野:自然科学系というと、どんなインターンシップを想定していたんですか?
前川:例えば博物館とか、動物園とか。実際にリバネスでインターンをする前年は、北海道の牧場でバイトのようなこともしていました。バイオであれば医学や製薬、食品系の企業もあると思うんですけど、実際は大学に届くインターン情報の多くが金融やコンサル系だったんです。ですから、行動生態学の学生が興味を持てるようなインターンなんて皆無だったわけです。
そんな中で、ミラノの実家に帰ったとき、衛星放送でリバネスを見て衝撃でした。これは面白そうだと思って、メールでインターンシップができないか聞くことにしたんです。
佐野:インターンシップではどれくらいの期間在籍していましたか?
前川:1ヶ月半くらいいました。毎週末にあった実験教室に4回ほど参加させてもらい、そのためのプロジェクト会議にも参加しました。
そのほかにも、当時、南千住にあったリバネスの研究所で、DNAマーカー作ってました。途中までしか関われなかったので、開発したマーカーは「2/3マイケルが入ってるマーカー」とか言われてましたけどね(笑)。
佐野:内容の濃い1ヶ月半を経験して、またイギリスに戻ったわけですね。
前川:はい。学部生だったので修士まで行くことにしました。そのあとロンドンにあるテレビ局でインターンシップをしながら、自然番組つくったりしてましたね。
佐野:なぜその後、また日本に戻ったんですか?
前川:きっかけは、自分の「やりたい仕事」でした。サイエンスのバックグラウンドをいかした仕事がしたい。でも、それって色々な選択肢があると思っていたんです。リバネスもその1つでした。ちょうどシンガポールに行く機会があったのですが、偶然丸さんが現地にいるとのことで、直接会って話をしました。
自分自身もやりたいことがまだ具体的ではなかったし、色々なチャレンジをできる場所が欲しかったんです。丸さんと話をしたとき、リバネスはなんでもやらせてくれそうだと思いました。普通の会社ってやりたいことができても、せいぜい1つですよね。
「リバネスしかない」と思いました。
やりたい仕事を漠然と考えていた前川さんは、その後、多くのことを経験しながら、それを具体化していく。
佐野:リバネスに来て初めの頃の仕事を教えてください。
前川:テレビ局での映像制作の経験がありましたら、映像制作の仕事などをやっていました。論文検索サイト「web of science」について、芸人さんとともにわかりやすく解説する「web of RAMEN」っていう映像コンテンツを制作したりしました。ほかにも科学館の展示プロデュースや宇宙をテーマにしたサイエンスショーなどもやりましたね。
佐野:これまでで一番心に残ったプロジェクトは?
前川:私自身の一番の転期となったのは、2016年から始めているインドへの進出だと思います。インドでシードアクセラレーションプログラムであるテックプランターを実施するというプロジェクトで、リバネスではまだ誰も手をつけてないエリアへの展開でした。はじめて0→1で立ち上げたプロジェクトでしたし、誰も知らない土地で人的ネットワークをつくって、新たな取り組みを実現していくのは、とても大変でしたがよい経験になりました。
これまでは、プロジェクトリーダーとは言っても、誰かのプロジェクトを引き継ぐことがほとんどでしたから。
自分にとってインドのプロジェクトはとても大きな出来事でしたし、自分がすごく成長できたプロジェクトだと思います。
佐野:最近、前川さんはイギリス支社を立ち上げましたよね?
前川:はい、2016年7月頃から動き始めました。ちょうどイギリスがEUを離脱するかもしれないと揺れ動きはじめた頃です。
イギリスは科学の伝統がある国のはずです。私もそれがあったから、イギリスの大学に進学しました。しかしイギリスの研究者は今、日本の現状と似ていて、若手研究者の研究費がなかったり、バックグラウンドを生かすこともできず、金融やサービス系の仕事についている人も多いんです。社会情勢が、さらにこの現象に拍車をかけて行く可能性もあります。私は、もう一度、イギリスを科学技術が生み出されていくような国にしたいと考えています。
佐野:イギリスが好きなんですね。
前川:学ぶ場所として、また科学や研究をやる場所としてはすごく良いところだと思いますよ。
佐野:今後、どんなことを仕掛けていきたいと考えていますか?
前川:私自身はイギリスの研究者の支援もしながら、イギリスを起点に世界の科学技術の発展を考えています。そしてもう一つ、世界中に熱意をもってコトを仕掛ける人を生み出し、育てていきたいと考えています。
ここ数年働いてみてわかったのは、ビジョンを達成するためには「自分一人では無理だ」ということです。同じビジョンを持っている人を育て、集めていく必要があると痛感しています。
あと、直近のやりたいことですが、Google Mapのようなエコシステムマップをつくってみようかと考えています。リバネスは色々な国に行って、現地のスタートアップや研究の状況を事細かに調べてきています。現時点では日本の各地域、シンガポールやマレーシアなどの状況が明らかになってきました。これを世界中に広げ、研究、教育、創業などの分野における現状を記したマップをつくりたいと考えています。
当初抱えていた前川さんの漠然とした「やりたい仕事」は、経験と知識を増やしていくことで様々な形に発展してきている。その仕掛けのすべてが、これから前川さんが世界を変えていくための要素になるのかもしれない。