研究のプロセスを探求するひと
西山 哲史(にしやま さとし)
博士(理学)
専門分野:分子生物学、発生工学
どんな作業も卒なくこなし、個人スキルの高いメンバーであることは間違いない。しかし、学生時代は、不器用な性格からチームでの活動に苦手意識を抱いていた。そんな西山 哲史(にしやま さとし)さんが今回、私に話したのは、異なる性質の人によるチームの可能性だった。
(聴き手:佐野 卓郎)
佐野:西山さんは、リバネスに来てだいぶ経ちますよね?
西山:はい。2005年7月にインターンシップで参加したのが始まりです。
佐野:まだ設立3年目のリバネスを、どうやって知ったんでしょうか?
西山:理系向けキャリア雑誌が大学の前で配布されていて、たまたま手にしたそれにリバネスが載っていたんです。
当時私は修士2年だったんですが、実験が全然うまくいかなくて。ネガティブデータしか出なかったんです。気分も低迷していたし、大学生活とはちょっと違うことをやりたいなぁと思っていたんです。リバネスを見つけて、とりあえずWebからコンタクトしてみました。
長谷川和宏さんに面談をしてもらったのが月曜日だったのですが、その週の日曜日からインターンシップに参加することにしました。
佐野:リバネスはウィークエンド型インターンシップですからね。日曜日は学生がいっぱい集まって議論していたと思いますが、参加してみてどうでしたか?
西山:リバネスのインターンシップでは、出前の実験教室などを企画・実施しますよね。実はそれまで、私自身は「アウトリーチや科学教育の活動が重要だ。やりたい」という強いモチベーションがありませんでした。単純にサイエンスが面白くて、好きだっただけなんです。リバネスに参加して、その「面白さ」を伝える教室の魅力に初めて気がつきました。
佐野:大学や研究室と比べて、リバネスの環境はどうでしたか?
西山:いろんな大学から同じぐらいの年代の人が集まっていて、とても楽しかったですね。私は在学中、都立の研究所で研究をしていたこともあり、異分野の人の話を聞くチャンスがほとんどありませんでした。様々な分野の、しかも最先端の話が聞けるのは、わたしにとってとても贅沢な環境だったと言えます。
佐野:その後入社して、どのような仕事に携わりましたか?
西山:入社当初は教材開発事業部に配属されて、高校生向けサイエンス誌『someone(サムワン)』や大学の研究者紹介冊子などを手掛けていました。インターンのときにメルマガを毎週配信するなど、記事作成についてはなんとなくノウハウがあったので、そんなに大変な思いはしませんでした。一方で、営業は本当に苦労しましたけどね。
佐野:営業、苦手そうですよね。
西山:当時は苦手でしたね。もともと引きこもり気質なんです。でもやらなければいけないと思って、気重ながらもアポイントメントを取ってみたり。そんなある日、初めて営業がとれたんです。8万円でのWeb広告でした。
佐野:なるほど。営業のアポイントメントに心理的ハードルを感じる人もいますからね。今はどうですか?
西山:その後、幹細胞を使った実験教室をある企業と一緒に実施したことがあります。私がプロジェクトリーダーをやったのですが、医療に係る内容なだけに、先方担当の方も細かいことまで気遣いながら進めていました。後で担当の方とお話をして、初めての経験の中で、不安だったことを知りました。
その頃から、営業でも打ち合わせでも、相手の人が何を考えているのかを想像するようになったんです。苦手意識も次第になくなりました。
佐野:西山さんは、研究が大好きですよね。研究のどこに面白さを感じますか?
西山:私が研究を好きという感覚は、もしかしたら他の研究者たちのそれとはちょっと違うかもしれません。
研究には「解明していくプロセス」があって、私は、それを考えるところに面白さを感じています。極論すれば、私自身が世界初の発見をしなくてもよいと思っているんです。
私は、「サイエンス・テクノロジー」と「研究」の面白さを別のものとして捉えています。中学生の頃の私は、「サイエンス・テクノロジー」にとても興味をもっていました。様々な現象を知ったり、あるいはまだ解明されていない事象があること自体を知ったり。エンタメ的な要素もあってとても面白いですよね。
その後大学で研究するようになった私は、そこに世界初を解明するプロセスがあることを知りました。研究には歴史があって、時代ごとに様々なアプローチの仕方が存在します。特に現在は、目覚しく技術が進歩していますから、昔扱われていたテーマに対して、全く新しいアプローチで研究することだってできるわけですね。だから、論文に載ってる研究手法を知るのも非常に楽しいわけです。
佐野:近年、様々なものが自動化されたりしていますが、そうなると研究のあり方もやっぱり変わってくるんでしょうか?
西山:そうですね。つい最近までの研究では、未知の世界をたくさんの研究者が人海戦術で塗りつぶしていくようなことをやってきました。世界は未知なることに溢れていて、どこを塗りつぶしていくべきかも何となく見えていると思います。
ただ最近、人工知能などの技術が目覚しく進歩していますよね。これまで人海戦術でやっていた部分は、AIとそれに制御されるロボットみたいなものが担っていくとしたらどうでしょう。研究者のあり方も、もしかしたら変わっていくかもしれません。
研究テーマを設定し、そこに対するアプローチの仕方などのプロセスをしっかりと構築できれば、その先にある発展の形は予測ができます。そこまでできたら、あとは機械化すれば良いのかもしれません。
佐野:そうなると、研究者は、テーマやプロセスなどについて豊かに発想できることが重要になりそうですね。
西山:はい。だからこそ、研究者はコミュニケーションを図り、コラボレーションすることが求められるんだと思います。お互いの考えをぶつけ合って、イノベイティブな発想を創出する。実際に、異分野でコラボレーションした論文もふえていると言われていますし。
そういう意味でも、研究者間において、リバネスが行うサイエンスブリッジコミュニケーションは本当に重要だし、今後益々求められていくと思います。
佐野:最後になりますが、これからどんなことを仕掛けていきたいですか?
西山:2009年頃、まだインターンに参加していた私は、世界中の人たちにサイエンスの面白さを共有したいと考えていました。サイエンスは純粋に面白いですし、それを理解する人が増えれば、社会は発達していくだろうと考えていたんです。だから私にとって次世代教育の事業はとても重要な取り組みです。
現在はそれに加えて、新しい研究開発のカタチを創っていきたいと考えています。
今私は、海底探査技術開発プロジェクト(DeSET)のプロジェクトリーダーをやっていますが、その中で、新たな海底探査技術の開発に向けて、これまで混じり合うことがなかった研究者・技術者・町工場や企業の方々と共に合宿を行い、研究チーム形成を行いました。文化も専門性も違う人たちですから、私たちリバネスが間に入りコミュニケーションを促します。まったく新しいやり方で作られたチームは、個々がバラバラになることはなく、巨大なコンソーシアムを形成するわけでもなく、それぞれの持ち味を共有できるネットワークを作り上げることとなりました。このやり方で果たして研究として飛躍できるのかどうか、まだチャレンジ中ではありますが、非常に楽しみです。
異分野でチームをつくり、課題に対して新しい研究アプローチを創出したい。そしてそこに、予想もしなかった共同研究を生み出していきたい。きっと、リバネスの価値もそこにあるのだと考えます。