環境を守るための技術開発と文化創出を同時に目指すひと
戸上 純(とがみ まこと)
博士(学術)
専門分野:電気化学
2016年3月、急きょインターネットを介した面談が設定された。画面の向こうにいたのは、まだ博士後期課程の学生だった戸上純(とがみ まこと)さんだった。ギリギリでの入社面談を仕掛けてきた彼は、その時点ですでにリバネスでの活躍に確信をもっていたようだ。今回は、そんな戸上さんにインタビューをしてみた。
(聴き手:佐野 卓郎)
佐野:戸上さんの専門って、ざっくり言うと新しい電池の開発ですよね?
戸上:はい。人がエネルギーを活用するうえで、電池は重要な技術のひとつですから。
佐野:そういった研究内容だと、ほかにもメーカー系企業とか色々と就職先はありそうですが、就活ってしなかったんですか?
戸上:博士1年の頃、就職サイトで説明会を探して行きました。説明会で色々な企業の人事の方ともお話しさせていただいたんですが、多くの方に「博士ももっと広く色々なことができないといけないね」と言われました。もちろんその通りだとも思うのですが、一方で企業から、自分が今まで突き詰めてきた専門や個性を求められていないような、そんな違和感を感じで就活する意欲が下がったんです。
佐野:それで博士論文が終わっても、行き先が決まっていなかったんですね。
戸上:アカデミアに残るんだろうな、と自分では思っていました。でも、大学も今や予算が減る一方ですから、やりたいことができる訳でもなさそうですし。
正直、悩んでいましたね。
佐野:戸上さんの「やりたいこと」って、どんなことですか?
戸上:私は熊本生まれの熊本育ちなんですが、小学校の頃、近くにあった江津湖の環境がとても気になっていました。ぱっと見た感じは綺麗に見えますが、実は外来生物がたくさんいたりして結構課題がある湖なんです。当時からボランティアなどの人手をかけて綺麗な状態を保っている状況でした。
一方で、子供の頃からミニ四駆や機械が大好きでした。中学2年生のとき和時計のテレビ番組を見たんですが、その仕組みを永久機関だと勘違いしてしまいまして。「これにモーターつけたら永久に電気を生める!」と思ってしまったんです。もちろん、実際には難しいんですけどね。でもこの時からエネルギーに興味を持つようになりました。
佐野:戸上さんにとって、「環境」と「エネルギー」の2つがキーワードということですね。
戸上:大学で研究をするようになり、ボスと話をしたときのことですが、ボスが私に「エネルギーは麻薬だ」と言ったんです。どれだけ、環境にやさしいエネルギーを生み出しても、省エネ技術を開発しても、それを使う人間の教育がしっかりとしていないとダメなんだと気付かされました。「環境を守る」ためには技術開発だけでなく、その文化を創り出すための教育も必要なんです。
佐野:なるほど。リバネスの可能性に確信をもった理由がわかってきましたよ。
戸上:リバネスは私の専門や個性も活かせますよね。研究もできるし、そらだけじゃない。技術を社会に実装したり、一方で教育を通して文化づくりもできます。私のやりたかったことのすべてが、リバネスにはあると思いました。
佐野:リバネスへのアプローチはどのようにしたのですか?
戸上:まずはWeb問い合わせフォームからメッセージを送りました。ただですね、実はリバネスのWebサイトを読み込んだら「リバネス人15か条」というところに、「メールを送っただけでは伝えたことになりません」と書いてあったんです。『試されてるな』と思い、電話してやりました(笑)。
佐野:そんなつもりはないんですけどね(汗)
戸上:電話で話を伺ったところ、偶然、代表の丸さんが熊本大学で講演をするとのことで、そこに参加して丸さんを捕まえました。丸さんは「じゃあ、すぐおいでよ」と言ってくれたので、すぐに遠隔面談、そのまま東京に来てしまった、というわけです。
佐野:リバネスに入社してから現在まで、どんなことをしてきましたか?
戸上:まずは、次世代を対象にした実験教室に注力してきました。子供対象の実験教室は、科学をわかりやすく伝えるスキルも身につきますし、プロジェクトを創出し推し進めるためのすべてが集約してるんです。実験教室で基礎を身につけ、自分がやりたいと思っている環境とエネルギーのプロジェクトにつなげていきたいと考えています。
科学と社会の関係に目を向け、環境とエネルギーをキーワードに自分の道を切り拓く戸上さん。深く掘り下げるための方法を考えがちな研究者にとって、掘り下げることの意味を知ることが、自分のビジョンをより明瞭にするのかもしれない。戸上さんの視線の先には今、曇りない未来が広がっているようだ。