インタビュー

実験教室の価値を最大化するひと

花里 美紗穂(はなざと みさほ)
博士(理学)
専門分野:腸管免疫

ひとにはそれぞれ才能がある。それには凡庸なものもあれば、非凡で特殊なものまであり、それを羨ましく思うこともある。花里 美紗穂(はなざと みさほ)さんは、特殊な才能の持ち主だ。実験教室をやれば子供からの人気は絶大であり、会議では彼女がいるだけで場が和む。そんな花里さんのキラリとした瞳の先は、一体何を目指しているのか。話を聞いてみた。

(聴き手:佐野 卓郎)

佐野:小さい頃はどんなひとでしたか?

花里:小さい頃から体の仕組みに興味がありました。風邪をひいて熱が出ている時、おでこが熱いのはなぜだろうとか。自分の体を守ろうとして、体内でミクロの戦いが起こっているということが、とても不思議に感じていました。

佐野:だから免疫の研究をしていたんですね。

花里:経口ワクチンのアプタマー(核酸医薬)の開発をしていたのですが、腸管免疫は本当に魅力的です。腸管は、免疫細胞の8割が集まっている「内なる外」じゃないですか。微生物など、自分の体が自分とは異なる生物によって維持されていて、その重量は1kgにもなるという話も感動しますよね。

佐野:研究も大好きのようですね。リバネスのことはどこで知りましたか?

花里:理系キャリア誌『incu・be(インキュビー)』です。大学研究所の一般公開イベントのときにサイエンスを伝える仕事があるということを知り、それを「サイエンスコミュニケーター」というのだと知りました。そんなサイエンスコミュニケーターについて、『incu・be』に掲載されているのを見つけました。子供たちに実験教室で科学の魅力を伝える活動が取り上げられていました。
体の中に広がる不思議な世界をいかにして伝えられるか。絵やイラストを活用しながら、子供たちにその魅力を伝えたい。免疫という現象は、当たり前に起こっていますが、実はすごいことなんだと伝えたかったんです。
また同時に、その楽しさや面白さを伝えたとき、子供たちがどう変わっていくのか、世界はどう変化していくのかを知りたかったんです。
日曜日のインターンシップならいいかと思い、リバネスに来ました。博士3年生の頃の話です。

佐野:インターンシップに参加してみてどうでしかたか?

花里:色々な分野の人たちとディスカッションするのがとても楽しくて、自分の研究の魅力も再認識することができました。熱いメンバーが多いですし、日曜日が楽しみになりました。やがて、この現場にずっといたいと思うようになりました。

佐野:入社に向けた全社プレゼンでは、かなり苦労をしていましたよね?

花里:2ヶ月間かけて6回もプレゼンテーションをしました。全社プレゼンをこんなにたくさんやった人は他にはいません。

佐野:リバネスの全社プレゼンは何度もできますからね。でも、逆に入社できないのではという不安はありませんでしたか?

花里:不安はありませんでした。社員の方とたくさんディスカッションを重ねていたので、一歩一歩進んでいることをなんとなく認識していました。一方、自分を見つめ直す機会になりましたし、入社したくなる気持ちが高まりました。
それに、たくさんのメンバーと膝を突き合わせて話をさせてもらいましたから、私のことも分かってもらえたと思います。ひとと話すことって大切だと思いました。

佐野:入社して最初の仕事は何でしたか?

花里:パートナー企業とともにiPS細胞を使った高校生向け実験教室を実施し、講師(TM)をやりました。そのほかにも、実験教室はたくさんやりました。
実験教室では「どういう風に問いかけたらその子のスイッチが入るのだろう」などとよく考えていました。たとえ講師として1対80人という構図で授業をやったとしても、本質は1対1でコミュニケーションをするわけです。一生に一度の出会いがそこにはあります。私にとっても、実験教室はすべて、かけがえのない日になるんです。
あと、リバネスに来て、ティーチングアシスタント(TA)の存在価値を知りました。大学でも学生実験などでTAがありますが、それとはまったく違うんです。単なる実験補助ではない。生徒と話す時間も一番長い。教室全体の雰囲気をつくり得るし、その人との出会いが子供たちに大きな影響と価値を与えていくわけです。その実験教室に参加して、子供たちは何を思い、何を得るのか。実はTAとの対話がとても重要なんです。

佐野:リバネス単体で実験教室を実施するときとパートナー企業の研究者の方たちと共同で実施するときとでは、何か違いを感じることはありますか?

花里:同じだと思います。企業の方など登場人物は増えますが、見つめるべき先は結局生徒で、生徒に出会いの場が作れることが大きなインパクトにつながるんです。

佐野:教育に随分と興味があるように見えますが。

花里:教育ではなくて、ひととの出会いに興味があるんです。自分の個性とほかの個性がぶつかり、混ざり合っていく。そこから新しい発見もあります。相手が子供であったとしても、私たち自身、たくさんの学びがあるのです。

佐野:花里さんは、イラストや絵本をつくるのが得意ですよね。これまで色々なものを一緒につくりましたから、知っていますよ。

花里:種飛行機の絵本入り教育キットでは、種飛行機の工作キットに絵本を制作して同封しました。
ほかにも、リバネスのコンセプトブック「リバネスの(ハート)」は、印象深い仕事でした。白いページ中央にイラストが描かれ、社員に伝えたい一言メッセージが載ります。余白が多く、見開きで1つのメッセージを伝える構造です。これを制作するにあっては、まず、会社のことをよく理解しなければいけません。そのうえで、どのように伝えるのかのアイデアを捻り出しました。
たとえば、「自分で仕事をおもしろくしよう」という一言が書かれたページでは、ガリガリと仕事をしたり、スーツで電話するようなイラストではなく、大きな刷毛で絵の具を広げてカラフルに混ぜ合わせる姿を描きました。そういうものがリバネスの仕事だとしたかったんです。

佐野:今後はどのような取り組みをしていきたいですか?

花里:私は「実験教室の価値を最大化」していきたいと考えています。実験教室とは、子供も大人もお互いに、言葉にならないような印象的な出会いを得られる機会だと考えています。単に思い出に残ることが重要なのではなく、ひとと一生に一度の出会いを果たし、お互いに変化をしていくことが大切なんです。想いを伝え、仲間を増やしていく。そこから起こってくる子供や大人研究者のアクションには、新しくも未知なる可能性がまだまだ溢れていると思います。
私がやってきた実験教室は、まだ最大化に至っていませんから、今後も挑戦していきたいと思います。

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