インタビュー

世界の「ものづくり」をつなぐひと

長谷川 和宏(はせがわ かずひろ)
修士(工学)
専門分野:機械工学、流体工学

リバネスの社内において「ものづくり」と言えば、この人をおいて他にない。長谷川 和宏(はせがわ かずひろ)さんは、リバネス設立して間もなく、社員となったメンバーのひとりだ。現在は関連会社でもある株式会社グローカリンクの代表取締役も務める。長谷川さんが目指す「ものづくり」の未来とはどのようなものなのか、話を聞いてみた。

(聴き手:佐野 卓郎)

佐野:長谷川さんと言えば「ものづくり」ですが、なぜ機械やものづくりに興味があるのでしょうか?

長谷川:理由なんてないですよ。とにかく、ものづくりは昔から大好きでテンションが上がるんです。中学生の頃、工業高校に行きたいと両親に話して、「少し待ちなさい」と止められたくらいですから。

佐野:大学で流体工学を学んでいましたよね?

長谷川:とにかく「ものづくり」をしたいと考えていました。一方で、大学では色々な知識は身につきますが、何を作る必要があるのかまでは教えてくれません。そこで、まずはものづくりをする現場を見てみようと、世界初の機械をつくるベンチャー企業でインターンシップをしてみました。

佐野:機械系ベンチャー企業でのインターンシップはどうでしたか?

長谷川:やってみて分かったのですが、実は、機械を製作することには、それほどテンションが上がらなかったんです。自分がやりたかったものづくりとは、一体何だったのか。そう思っていた矢先に、学生向けインターンシップイベントに呼ばれ、登壇することになりました。そこでリバネスに出会ったんです。

佐野:そのインターンシップイベントは私もリバネスとして参加していました。イベント後のリバネスの懇親会に、長谷川さんも参加していましたよね?

長谷川:はい。学生が新しいことを起こそうとしていたリバネスに、興味を持ったのです。教育、科学への啓蒙活動、技術開発が必要だというリバネスの話にも共感しました。そして、そのまま入社したんです。

佐野:当時、リバネスは売上なんかほとんどなかったのを知っていましたよね?

長谷川:何とかなるはず、何とかすればいい、と思っていました。「武器は走りながら拾う」です(笑)。それに、リバネスはきっと、ビジネスをする上で必要ものが身につけられる場となる。自分にとってもかけがえのない場所になるだろうという、根拠のない確信をもっていました。

佐野:リバネスに来て最初にやった仕事はなんでしょうか?

長谷川:事業化のための助成金を活用した「バイオ教育キット」の開発でした。自分が中心になって申請書類をつくり、運良く採択されたんです。これが無かったら入社できなかったかもしれません(笑)。

佐野:まだ人件費を担保できるような会社では無かったですからね。給料は自分で確保する、というところでしょうか。実験教室の実施などもしていましたよね?

長谷川:当初はバイオ系の実験教室が多かったですから、講師 (TM)をやるときは、かなり自問自答をしました。専門が違うわけですから、どんなメッセージを伝えようかと悩みました。一方でプロジェクトリーダー(PL)をするときは、色々な工夫をしました。自分の専門性を活かせる場は少なかったのですが、どうプロジェクトをつくって進めていくかという部分については汎用的なスキルですし、学ぶこともたくさんありました。

佐野:リバネスに入社してから現在に至るまでで、一番心に残っているプロジェクトはなんでしょうか?

長谷川:一番と言われると難しいですが、「メガコーム」を企画し販売したことでしょうか。「メガコーム」はバイオ系実験で使用する道具で、遺伝子等を電気泳動する際のゲル板に、試料注入用の小さな角穴をつくるためのものです。よく遺伝子検査などで、ゲル板に濃淡様々な帯状の線がたくさん入った写真を見たことがあるかもしれません。その帯の列を増やすことができれば、多くの試料をいっぺんに実験でき、効率的かつ経済的になるという道具です。
この道具は実験教室でも使用しますから、私も知っていました。ただ、ゲルの角穴を増やすことで実験が効率的かつ経済的になるというニーズは、バイオ系のメンバーから聞いたものです。
単純な形状ですから、町工場ならすぐ作れるはず。早速、墨田区の町工場である浜野製作所に伺って、このバイオ系実験機器を共同開発してもらいました。

佐野:その頃、まだリバネスにはものづくり系の仕事はありませんでしたから、この「メガコーム」が最初とも言えますよね。リバネスが目に見えてバイオのみの会社から脱した瞬間と言えるかもしれません。

長谷川:はい。無理矢理ものづくりを始めた感じですし、小さなプロジェクトではありましたけれど。トータルで50万円くらいしか売れていないでしょうね。でも、このプロジェクトのおかげで浜野社長とも仲良くなり、町工場と一緒に仕事を始めるようになったんです。

佐野:長谷川さんの周りに集まってきたものづくりベンチャーが、その後、プロトタイピングで町工場に出入りするようにもなりましたしね。

長谷川:はい。ここからベンチャー支援が始まり、Garage Sumida(浜野製作所内)ができ、さらにはこの3月にプレオープンを果たしたCenter of Garage(センター・オブ・ガレージ)に進展しました。今では海外からもものづくりに関する課題が持ち込まれるようになってきました。

佐野:すべては、つながっているんですね。

長谷川:入社当初はベンチャーの日常業務を学びましたが、それが今ではベンチャー育成に活きています。ものづくりに対する考え方も大きく変わりました。「ものづくり」とは、手と道具を使って工作をすることだけではなく、頭を使う部分もものづくりのプロセスにあるということを、リバネスの活動を通して知ったんです。
私は、ものづくりをするための社会的な仕組みや、ものづくりの価値向上などについて興味があるのだと再認識しました。

佐野:今後はどのような取り組みをしていきたいですか?

長谷川:学生時代までの「ものづくりをしたい」という願望から、現在に至り、多くの町工場の方に触れるに従って「町工場の活性がしたい」という思いを抱いてきました。そして今、その想いはさらに進化しつつあります。これまでの町工場は、量産に対応することで拡大してきましたが、ベンチャーとの取り組みを経験し、試作から新たな価値が生まれることがわかりました。今後は、未来に一石を投じるベンチャーのアイデアを具現化するために、町工場とともに「アディショナル・プロトタイピング(付加価値的試作)」をしていくことこそ、その価値を上げていくと考えています。
世界中のものづくりベンチャーのためにこの取り組みをすれば、きっと科学技術を社会実装する速度は飛躍的に高まるのではないかと考えています。

佐野:町工場の方々にも、グローバルな視点が求められますね。

長谷川:実は、すでに世界と町工場をつなぐチャレンジを始めています。浜野社長にシンガポールまで来てもらったことがあるのですが、世界のものづくりの課題なんて、大したことないんだと気づきました。言語だけですよ、課題は。それくらい日本の町工場はすごいんです。
町工場は、あまりに土着し過ぎたコミュニティのため、世界にその価値が伝わっていないのかもしれません。世界にその価値を周知していけば、町工場の売上げだって上がるだろうし、人も世界中から集まり、きっと活性化するにちがいないと確信しています。

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