博士の価値の最大化を目指すひと
石澤 敏洋(いしざわ としひろ)
博士(生命科学)
専門分野:分子生物学
石澤 敏洋(いしざわ としひろ)さんは、現在地域開発事業部の部長を任され、国内を飛び回っている。様々な地域に赴いては新たな仕掛けをつくり、地域の未来を地元の人たちと創り出そうと考えているのだ。そしてこの活動に欠かせないのが「博士」の存在だと言う。今回はそんな石澤さんに話を聞いた。
(聴き手:佐野 卓郎)
佐野:インターンシップに参加していましたよね?
石澤:はい。柏から通っていました。
佐野:なぜリバネスのインターンシップに参加しようと思ったんですか?
石澤:私は修士課程在学中に就活して、内定ももらっていました。でもやっぱり研究が好きで、そのまま博士課程に進むことにしました。一時は企業人になろうと考えていたこともあり、研究にプラスして何か活動したいと思っていたとき、友人が主催する博士交流会でたまたま丸さんに出会ったんです。それから半年ほど経って、面談をしてインターンに参加することを決めました。
佐野:インターンシップでは、どんな活動をしていましたか?
石澤:中高生向けの実験教室のほかに、企業でのバイオテクノロジーに関する技術研修などもやっていましたね。当時は、バイオ分野に企業の目線が向き始めた頃でしたから、バイオ関連の技術体験をしたいというニーズが増えていたんです。インターン生なのに決して安くはない契約を締結するところから経験させていただきました。これらの活動を通して、研究成果を社会につなげることの意味や感覚みたいなものを知ることができました。
佐野:その後、入社に至るわけですが、なぜリバネスに入社したんでしょうか?
石澤:社会における博士の地位というか、価値の向上みたいなことに興味があったのです。博士人材がもっと活躍できる社会をつくりたい。その方法は色々あると思いますが、社会の仕組みから考えて構築するにはリバネスしかなかったんです。
佐野:なぜ、博士人材がもっと活躍できる社会をつくりたいと思ったのでしょうか?
石澤:当時は、ポスドク問題真っ只中でした。ラボの先輩はみんなアカデミアに残り、研究を続けていて。企業への就職はドロップアウトのような印象があったんです。でもそれって何か間違っているような気もしていました。
一方、私自身も修士課程在学中に就活しましたが、就活している期間は、当然、研究を止めているわけです。研究を止めているくせに、企業面接では「研究が大好きで・・・」っていうのも違和感がありますよね。研究を続け知識を追求していることが、そのままキャリアにつながる仕組みをつくれないだろうかと考えました。
佐野:リバネスに社員として入社してからは、どんなことをしましたか?
石澤:最初の頃は、理系キャリアイベント「Career Discovery(キャリアディスカバリー:現キャリアディスカバリーフォーラム)」や「博士のキャリアカフェ」を立ち上げていました。
佐野:感想は?
石澤:私のやりたかったことには沿いますが、これをどうやってビジネスにしていくのか、という課題にぶつかりましたね。とても楽しかったのですが、同時に難しさも感じました。
佐野:石澤さんは、これまで様々な事業部を経験して、現在は地域開発事業部の部長をやっていますよね?
石澤:はい。地域開発事業部は、科学技術や教育などを活用しながら国内地域を盛り上げていくような活動を展開しています。他の事業部とは違い、地域開発事業部は「リバネスのすべてを使って地域でなにができるか」を考えなくてはなりません。出向く先々の地域によって課題が違いますし、それぞれの地域で企業や大学、地方銀行、自治体のひととがっちりと手を組んで活動する必要があります。とてもおもしろい仕事ですね。
佐野:そういえば、滋賀県などと一緒に地域の産業や人材を育てる取り組みを始めていますよね?
石澤:はい。県と連携しながら、その地域の新たな産業を創出するような取り組みなどをしています。地域テックプランターのような仕組みを使って、エコシステムをつくっていこうというものです。
佐野:どの地域も地域活性化などに予算をつけて、色々と取り組んでいますよね。
石澤:でも、このままでは頭打ちがくると思うんです。たとえば、イベントや観光施設を建てるなど色々と取り組んでいる地域もありますが、やはり、地域を担う未来のひとや産業を育むことが必要だと思うんです。そのためには、きっと地域に科学技術が必要になります。そして、それは今から仕掛けていく必要があると考えています。
佐野:長期的なプランを考えているということですね。
石澤:そうですね。たとえば滋賀県や熊本県などでは、コンソーシアムを組んで活動を始めています。地域のひとたちも、長期戦を仕掛けようとしてくれているんです。
佐野:そうなると、石澤さんは今後、地域のエコシステムを構築するような活動をしていくのでしょうか?
石澤:私自身何をしていきたいか、まだモヤっとしているんですけどね。地域開発事業部には、重永さんのように、地域に愛着をもっている人がいます。一方で、私は地域に愛着があるというよりも、地域を巡り、そこにいる人たちに惹かれて取り組みを始めています。地域テックプランターなどで新たな産業の種を育むような活動をしていると、そこには、熱意のある博士たちが集まってきます。「地域を、日本を、世界を、こうしていきたい」と強い意志を表明してくださるんです。地域にもたくさん活躍する博士がいる。新産業が生まれれば、さらに多くの博士が、そのキャリアの可能性を広げるでしょう。
そしてその先に何が見えてくるのか、今の私にはまだわかりません。滋賀県との取り組みなどから、まずは地域における博士の価値や在り方を見出し、地域の未来をイメージしていきたいと思います。