インタビュー

分野や立場の垣根を越えて融合し合う場を創るひと

環野 真理子(かんの まりこ)
修士(理学)
専門分野:生物地球化学、海洋生態学

私が初めて環野 真理子(かんの まりこ)さんに出会ったとき、話下手で慎重な学生という印象で、決して彼女の内心にある強さと情熱に気づくことはなかった。しかしその後、様々なプロジェクトに参加する中でめきめきと頭角を現していった。今回はそんな環野さんにインタビューをしてみた。

(聴き手:佐野 卓郎)

佐野:学生時代は環境にまつわる研究をしていましたよね?

環野:海の物質循環に関する研究をしていました。炭素は生態系において空気中の二酸化炭素から植物の光合成を受けて有機物になり、生物の呼吸や分解者の働きなどによってまた分解され二酸化炭素に戻るという循環をしていますが、それは地上だけでなく海の中でも行われています。例えば、二酸化炭素を使って植物プランクトンや藻類がつくる有機物が分解しにくければ、炭素は当然、海に蓄えられていきます。海も炭素の貯蔵槽になるんです。私は、成長と漂流を年単位で繰り返すような大型藻類を研究して、その炭素の行方を追う研究をしていました。

佐野:環野さんは筑波大学の学生でしたから、リバネス本社(東京)までは結構遠かったですよね。そこまでして、なぜインターンシップに参加したのでしょうか?

環野:学部3年生のとき、サイエンスコミュニケーションをやりたいと思い始めたんです。その頃、ちょうど大学内で仲の良い先生がサイエンスカフェを始めるというので、その立ち上げに参画させてもらうなどしていました。
あるとき、キャリア雑誌を見ていたらリバネスが載っていたんです。記事には出前実験教室をやる会社と書いてあり、興味をもちました。
4年生になり、当時すでにインターンをしていた西山さんが、リバネス紹介のため大学へ来たんです。話を聞いて、面白そうだし行ってみようって。

佐野:私が初めて会ったとき、環野さんはおとなしい人で、人と話すのも苦手という印象がありました。なのになぜ「コミュニケーション」に興味を持ったんでしょうか?

環野:確かに、コミュニケーションというと、人と仲良く話をしたりするようなイメージもありますが、私はそういう風には捉えていなかったんです。
特にサイエンスコミュニケーションでは、如何にしてサイエンスの本質を伝えるかが重要で、その手段として会話やプレゼンテーションの他にもライティングによる伝え方があったりします。
私は、研究学園都市に憧れて筑波大学に入学しました。でも住んでみると、思っていた環境と少し違ったんです。つくばにはたくさんの研究機関がありますが、それぞれ何をしているのかも分かりませんでしたし、市民と一体になっている感じもあまりなかったように思います。
アカデミアと社会を、何かしらつなげていきたい。そのための手段について特に考えていたわけではありません。先生とサイエンスカフェをやっていて、今度はリバネスで実験教室をやることにして。
当時は就活もする中で、自分でもしゃべるのが本当に下手だと感じていましたが、それも改善できるかもしれない。何かしないと、自分の未来を掴めないとも思っていました。大学以降は自分で道を開拓していかないといけませんからね。

佐野:インターンシップで実験教室に参加してみてどうでしたか?

環野:従来のイメージの実験教室ではありませんでした。価値を届けるために企画を作っていくこと。科学的事象や教科書的な情報だけでなくて、ひとりひとりの講師の想いを本当に重視していたんです。もちろん実験のプロトコルなどベースはありますが、生徒に合わせて企画も全部変えて、新しいものを常々作り出しているんです。

佐野:苦労はありましたか?

環野:ものすごく苦労しましたよ。実験教室で始めて講師を担当したときは、全然しゃべれなくて。スライドをつくれば話せるわけではないんだと実感しました。自分は何者で何を伝えたいのか。人前に立つのであればそれが必要なんですよね。

佐野:なるほど。理系学生にとって、人前で話す機会はそれほど多くないですからね。

環野:私は慎重な方なので、リバネスでインターンをするまで、物事を並行して実行するようなことはしませんでした。ひとつずつ丁寧に、試験のときはそれに集中して、それが終わったらサークルを頑張って。
でもそれじゃダメなんだと思うようになりました。チャンスを逃してしまう。物事を並行してできるくらいじゃないと、やりたいことなんて、いつまで経ってもできないんだと知りました。「できるかわからないから止めておく」のではなくて、「やると決めて、できるように頑張る」。そうやって前に進むんだと実感しました。

佐野:リバネスへは、なぜ入社しようと思ったのでしょうか?

環野:就活していたときは、一応、他の会社も探していたんですけどね。リバネスでインターンをして、教育に興味を持ち始めていました。環境の研究をしていましたが、教育を通して、広く環境問題への取り組みができるのではと考えてリバネスを選びました。

佐野:入社して以降、どんな仕事をしてきましたか?

環野:入社時点で私は、理系キャリア雑誌『incu・be(インキュビー)』の編集長をやっていました。ちょうど校了間際で、大変だったのを覚えています。

佐野:『incu・be』は随分と長い間関わっていますよね。

環野:そうですね。インターンの頃からやっていますが、多様な方々のインタビューを通して色々な視点を持つことができ、自分の視野が広がりましたね。
その後、多くの企業やアカデミアの方たちと仕事をしてきましたが、「我々がやっていることってなんだろう」と振り返ることがよくあります。手に取れる明確な商品があるわけでもないですし、新しいことをやっていますしね。その価値が分かりやすく周りから提示されるわけでもありません。自分自身の信念がなければ仕事にならないんです。「こういう仕組みを社会につくったらどうだろうか」とか「こうしたらもっと良くなる」とか。そうした仮説染みた目標に向かって、これまでメンバーやパートナー企業の方たちと取り組んできました。良い結果につながる経験もできて、自分を信じることができるようになったんです。

佐野:多くの経験からたくさんのことを学んで、自身の成長につなげてきたんですね。

環野:はい。これまで多くの人たちの影響を受けサポートをもらいながら、成長してこれたと思います。多くの人たちとミッションや志を共有して、何かのために、誰かのためになろうと。私自身、大分背伸びしながらやってきました。

佐野:今後はどのようなことを仕掛けていきたいですか?

環野:私は最近、研究者の成長の「場」について考えています。学生時代の私は、誰よりも成長をしなければならなかった人間ですが、そのトレーニングの場は決して大学や企業に留まらないとも感じてきました。
以前取材させて頂いた先生も、「組織が組織の中だけで学ぶという時代はすでに終わっている。イノベーションを起こしたいなら、目指すビジョンを共有しあって互いに進み、影響しあっていく必要がある。」とお話していました。物事の境界がどんどんとなくなっている中、こうした「場」の境界も少しずつなくしていくべきでしょう。
企業人材と研究者そして子供たちまでもが、垣根を越えて学び合う世界。それぞれがミッションや志を共有し合って、お互いに影響し合っていけば、どんな瞬間、どんな場面でも成長の「場」になり得ると考えています。今後私は、これまで枠組みなどにより孤立していた「場」を融合し、学び合える環境を創り出していきたいと考えています。

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