自身の殻を破りつづけ、海の豊かさを追求する人
「描いたビジョンを実現する」「自らを成長させる」そのためならば得たものをいったん手放すこともいとわないのが、創業開発事業部 新部長の小玉 悠然である(2024年5月に就任)。大学2年生の時に複数のベンチャー企業の事業開発、創業に携わった小玉は、事業と並行して、修士課程で猛毒クラゲの大量発生要因を解明するための研究にも励んだ。その後「海の豊かさを残したい、そのために海洋教育を広げたい」というやりたい世界への思いを貫くためにリバネスに入社した。なぜリバネスにジョインすることを決めたのか、ここからどのような挑戦をしていきたいのかを伺った。
リバネス創業開発事業部 部長。投資育成研究センター所属。北里大学大学院 海洋生命科学研究科修了 修士(水産学)。専門は水圏生態学、浮遊生物生態学。学生時代には猛毒クラゲの大量発生要因の解明に従事しつつ、ベンチャー企業の事業開発・展開・創業に参画。海ごみ削減プロジェクト「プロジェクト・イッカク」コミュニケーター。現在はAIRAS (ASAHI Innovative RAS)Project、襷-TASUKI- Project、一般財団法人 潮だまり財団など、海の豊かさを追求するために分野を超えてミッションを創り、推進することに従事している。
「持続可能な教育をどうビジネスで実現するか」ぶつかった大きな壁
まず、大学2年生でベンチャー企業に参画したのは、どのような経緯だったのでしょうか?
当時は教育者の道も考えていたこともあり、大学1年生の頃から塾講師のアルバイトをしていたのですが、その後は家庭教師に切り替え、比較的自由な時間と、お金を手に入れることができました。一方でもっとやりがいのある活動を行いたいという思いで、様々なセミナーや勉強会に顔を出すようになりました。そんな中で出会ったのが、自分の好きを仕事にするという選択肢でした。
どのような事業をしていたのでしょうか?
在学時より様々な活動を複数の会社と進めていたのですが、その中の1社にお願いし進めていたのが、自分の好きなクラゲを軸とした海洋教育です。私はクラゲを中心とした海洋教育を普及させるために「クラゲ屋」という活動を展開していました。クラゲの不思議・魅力を配信するWEBメディア「クラゲ屋」を立ち上げ、また、私の活動に理解を示してくれる経営者、研究者の皆様のご協力もあってコーヒー1杯分程度で購入できる、マニアックなミニ写真集「マニマニ」でクラゲ特集を作成していました。
なぜクラゲだったのでしょう?
在学時より私は、「なぜ海の生き物たちはこれ程までに強い毒を持つ必要があったのだろう」という疑問を持っていました。そんな中でもクラゲは3億5000万年前、先カンブリア時代より生きる、生き字引のような生き物です。心臓もなければ脳もない。おまけに流れには負けてしまうほどの遊泳力しかない。そんな生き物がどうして今日まで生き残れたのか、もしかすると彼らが持つ毒が大きな役割を示しているのではないか。とにかく研究したい気持ちが溢れてきました。そうして私は、未知な領域がたくさん残っているクラゲに魅力を感じ、卒論と修論は「アンドンクラゲ※の成長に伴う食性変化」というテーマで取り組みました。
※アンドンクラゲ…非常に強い毒を内包した刺胞細胞を持っているクラゲで、お盆前後に全国各地で大量発生報告がある
研究に事業、目まぐるしく充実した日々を送っていたことと想像します。
充実していましたが、色々な困難もありました。特に苦労したのは「ビジネスで教育を提供しつづける仕組みをどう構築したらいいか」ということでした。おこがましいかもしれませんが、クラゲ屋の活動は人気がありました。「クラゲ採集・飼育講座」や「クラゲを見て・学んで・食べるナイトツアー」などのイベントの開催告知をすると、あっという間に満席になりました。また、X(旧Twitter)のフォロワーは1900人程度なのですが、クラゲに関して投稿すると、多くのインプレッションを稼ぐことができました。「クラゲが大好き」というコアなファンがアカウントに集まっていたので、すぐに拡散されて人気はある。でも、日々の活動費を賄うのはギリギリな状態でした。
なぜそのような状況に陥ってしまうのでしょうか。
人件費や会場費もかかるため、教育分野におけるビジネスはどうしても収益性が低くなりがちなのです。イベント開催では教材の作成に多くの時間がかかりますし、雑誌発行では取材や執筆に時間を費やしますが、販売単価は数百円程度です。また、親子で参加するイベントが多かったため、複数枚のチケットを購入すると高額に感じてしまいます。そのため、客単価を引き上げることも難しいなと思っていました。
当時はクラゲ屋の活動費をまかなうために、とにかくいろんな仕事をしていました。飲食店のキャッチ、イベントスタッフ、夜間のバイトまで何でもやっていました(笑)。そして、「クラゲ屋」をどうビジネスとして成立させるか考え悩んでいるときにリバネスを思い出したんです。
信念を衝突させつつ、全員でビジョンに向かう
リバネスはどのようなきっかけで知ったのでしょうか?
修士1年の時に、リバネスが日本財団およびJASTOと実施している「マリンチャレンジプログラム」の研究コーチをしたのがきっかけです。クラゲ屋をどのようにビジネスとして成立させていくか試行錯誤している中で、「そういえば“イケてる教育”を提供している会社があったな」とリバネスを思い出しました。
そこからリバネスについて調べると「マリンチャレンジプロジェクト」を毎年開催している。さらに、中高生研究者が集まり、自らの研究を発表し議論し合う「サイエンスキャッスル」という取り組みもしていて、教育にとても力を入れている。リバネスのビジネスモデルの構築の仕方を習得できれば、海洋教育を広げることもできるなと思い、入社を希望しました。
リバネスに入社するということは、起業した会社での立場を捨てるということでもあると思います。どうしてその覚悟ができたのでしょうか?
「海洋教育を広めたい」という自分のやりたい世界を叶えるためには、リバネスが近道だと思ったからです。人生は有限ですから、やりたいことをより早く達成できそうな道を選ばないと、あっという間に年老いてしまう。リバネスには持続可能な教育を実現するノウハウがあり、「科学技術の発展と地球貢献を実現する」という志を持つ人たちが集まっています。「ここにいけばやりたいことができる」という確信があるのに、飛び込まないという理由はなかったですね。
実際に入社して、リバネスをどのような会社だと感じていますか?
リバネスは、「科学技術の発展と地球貢献を実現する」という大きなベクトルに全員が向きつつも、個人のベクトルはみんな全く違う方向を向いています。そのため、小さな衝突も頻繁に発生している。種類が違う生き物が1カ所に集まっているという意味で、動物園のような会社だなと思いました。
入社する前に、教育開発事業部の前田里美さんから「カオスを楽しめる人なら、リバネスに居続けられる」と言われました。学生時代に事業資金を集めるために様々な仕事をしたり、これまでの私の人生も十分にカオスだったので、これ以上のものがあるのかなと疑っていましたが、入社してみたら前田さんの言う通りでした(笑)。
具体的にどういったタイミングで、そのカオスを実感したのでしょうか?
例えば入社4年目に担当した「地域テックプランター」の審査会です。地域テックプランターでは、課題解決を通して社会を変えたいという熱い想いを抱く研究者や企業を募り、「ファイナリスト」をリバネスが選びます。その後、リバネスが伴走しながら社会実装を目指すという仕組みなのですが、そのファイナリストを選ぶ審査会で、想像以上にバチバチの議論が勃発しました(笑)。
リバネスの人たちはそれぞれ専門とする分野が違うため、選ぶファイナリストも変わってきます。そして全員の熱量も非常に高い。各々の信念にそった意見を本気でぶつけあう姿を見て、予定調和では物事が進まないカオスを感じました。
小玉さんのように信念を持って入社している人たちばかりがリバネスにいるからこそ、議論が白熱しやすいのかもしれないですね。
そうなんです。見方を変えると、信念が強い人たちばかりの会社で、自分のプロジェクトをつくれたら絶対に成長できるなと思いましたし、絶対につくってやろうと心に決めました。
至上命題は「市場をつくること」
小玉さんが主導したプロジェクトで、印象に残っているものはありますか?
印象深いものはたくさんあるのですが、特に印象に残っているのは、持続可能なスマート閉鎖循環式陸上養殖装置を開発する「AIRAS (ASAHI Innovative RAS)Project」でしょうか。管工機材(配管材料)・樹脂を製造販売する旭有機材株式会社が主催する「世界的な動物性タンパク質の不足を解決する」という社会課題の解決に貢献する新規事業で、2023年3月に開始しました。
AIRAS Projectはとにかく自ら動き回って立ち上げたプロジェクトで、旭有機材の想いを軸に、北海道から沖縄まで足を運びました。というのも、まずは旭有機材の製品の強みを知らないと、何をすべきかも見えてこないと思ったからです。そこから担当者と議論を重ねる中で、「旭有機材の製品は水族館や養殖場で信頼される製品として広がっている。この技術は確実に世界規模のタンパク質問題を解決するのに貢献できる」という目標にたどり着き、同じ志をもつ7社と共に、AIRAS Projectを始動しました。
小玉さんは、2024年5月に創業開発事業部の部長に就任しましたね。「教育」だけでなく「創業」にまで幅を広げてプロジェクトを牽引していますが、今後はどんなことに挑戦していきたいですか?
「市場をつくる」ことに挑戦したいです。水産や海洋という一定の領域のなかで、まだ出会っていなかった企業との連携をつくることはできているのですが、全く違う領域の企業が連携して技術をつくる、市場をつくるというのはまだやれていないです。創業開発事業部の部長になったこともあり、様々な領域を俯瞰して、異分野連携を作っていきたいですね。
リバネスは通年で修士・博士の採用活動を行っています。 詳しくは採用ページをご確認ください。