栽培研究王を目指すひと
宮内 陽介(みやうち ようすけ)
博士(農学)
専門分野:作物学
口数も少なく決して目立ったひとではないが、「栽培」というキーワードが出るたびに必ず浮かび出るメンバーがいる。宮内陽介(みやうち ようすけ)さんだ。ひと知れず植物を栽培し続け、現在ではアグリガレージ研究所を設立して所長も務める。今回はそんな宮内さんに話を聞いてみた。
(聴き手:佐野 卓郎)
佐野:修士・博士課程では大豆の研究をしていましたよね?
宮内:はい。学部生の頃には小麦を研究していたんですけどね。大学院に入ってからは大豆の研究をしてきました。
佐野:なぜ大豆なんですか?
宮内:私はもともと作物学をやりたかったんです。食料生産に興味がありましたから。当初は稲の研究をやっていましたが、稲の研究ってやり尽くされてるように感じていたんです。そんな中で大豆と出会いました。
学部3年生のとき、先生の中国旅行に付き添って行ったことがあるんですが、その旅先で、大豆がやたらと穫れるっていう噂を聞いたんです。どうも環境が良いらしいのですが、はっきりとは分からなくてとても興味をもちました。
そこで、大学院に入って新疆ウイグル自治区で研究を始めたんです。そこは乾燥地帯で、夏の日差しが照ると40度の暑さなのに対し、日陰だとすごく涼しいんです。冬になると-20度の極寒で、夏と冬の気温差は60度近くもあるんです。
気温差が大きいと、多くの虫は死んでしまうため害虫が広がりにくくなります。一方でその地域では、トウモロコシや小麦、加工用トマト、ヒマワリ、綿などを育てていましたが、大豆はほとんど育てていませんでした。北海道産の大豆を育ててみたところ、良くわからないけど大きく育つんです。水を流しながら肥料を与えても、全部地下に染み込んでいってしまうような場所なんですよ。不思議でしょ。
佐野:リバネスはどこで知ったんですか?
宮内:自分の研究とかノウハウを活かせる場所を探していたんです。インターネットで調べていたら、リバネスを見つけました。当時「宇宙教育プロジェクト」の一環で、スペースシャトルを利用して宇宙に大豆を打ち上げていたんです。「なんだ、この会社は!?」と思って。Webサイトをよくよく見るとインターンシップを受け付けていたので、早速コンタクトしました。
佐野:面談は当時の本社(新宿区四谷)で行ったんですよね?
宮内:はい。上野さんが一緒に面談していましたね。インターンシップはとても活気がありましたから、興味をもってすぐに参加をしました。
佐野:インターンシップではどんなことをしていましたか?
宮内:インターン生が考え出した「サイエンスクエスト」という企画を展開していました。サイエンスを使った謎解きゲームみたいなもので、今考えてもユニークな企画だと思いますよ。
佐野:入社してすぐにどんな仕事をしましたか?
宮内:「宇宙教育プロジェクト」で宇宙から帰還した全国各地の地大豆(各地域に残る特有な大豆)を、各地域の子供たちと栽培し研究するプロジェクトをやっていました。宇宙線が大豆種子に及ぼす影響を見ようというものです。
マメ科植物は痩せた土地でも育つ特徴がありますから、他の植物に比べて、宇宙でも育てやすいのではないかと考えられています。しかも大豆は栄養価が高い。宇宙で作物を育てたいならば、まず大豆から始めるべきでしょう。
佐野:大豆って多くの可能性を秘めているんですね。
宮内:マメ科植物が痩せた土地でも育つのは、その根っこに共生している根粒菌の働きによります。その仕組みや働きにはまだ未知の部分が多く、そこが解明できれば、もしかしたら他の作物にも応用できるかもしれません。マメ科植物への接ぎ木による作物の生産なども考えられるかもしれません。
佐野:最近、土の研究に関するプロジェクトも始めようとしていますよね?
宮内:土は植物が育つためにとても重要なものですからね。農業現場の課題を知り、土や田畑をどうつくるのかを研究するんです。そもそも土である必要があるのか。それがわかってくると、将来的には宇宙での農業を実現するに至るかもしれません。
農業に想いを持って取り組むベンチャー企業とともに、まさにこれからプロジェクトを進めていくところです。
佐野:宮内さんは、博士課程修了後のキャリアになぜ企業を選んだんですか?
宮内:農業に近い立場で学問を選んで、色々と研究をしてきました。実際にこうやれば収量が上がるとか、様々なデータを取り、手法を知ることもできました。それをぜひ農家さんに使ってもらいたい。でも農業現場に実装するのってとてもハードルが高いんです。大学で研究しているだけでは難しい気がして。企業の立場、産業の立場からアプローチしようと考えたんです。
佐野:入社時の全社プレゼンでは「大豆王になる!」って言っていましたよね?
宮内:今は「栽培研究王」を目指してます。栽培に関することであればなんでも研究していきたいと考えています。
佐野:栽培研究の今後について、考えを聞かせてください。
宮内:農業の研究者には今、地に足を付け地道な研究をしていこうとする人と、宇宙農業のような近未来的世界観で研究している人がいるように思います。従来の手法でデータを蓄積する研究もあれば、新技術を活用し新しい視点から研究を進めていく研究もあります。きっと、昔ながらのデータだけでなく、シークエンス技術などを組み合わせ、新しい視点から研究を進めていくことで、明らかになることも多くあるでしょう。しかし、農業研究において、こうした人や研究を組み合わせることは未だできていません。
植物は色々な要素で育ちますが、その要素が明確にはわかっていません。それがわかれば、効率的な生産ができるでしょうし、宇宙での生産も可能になるかもしれません。リバネスで様々な研究者や大企業・ベンチャーと出会い、また地域の農家の方たちとも一緒になって、立場を超えたチームを作りながら、栽培研究を進めていきたいと考えています。