インタビュー

世界の研究を次なるフェーズに導く研究者

高橋 宏之(たかはし ひろゆき)
博士(理学)
専門分野:分子生物学、酵母の遺伝子、生化学、タンパク質科学

2009年に入社した高橋宏之(たかはし ひろゆき)さんは、リバネスの中でも群を抜いて科学的知識と経験をもった研究者だ。多くの研究者が研究のアドバイスを求め尋ねる存在である。特に基礎研究に対する情熱が強い高橋宏之さんが、アカデミアではなく、敢えてリバネスを選んだ理由は何なのか、インタビューによって紐解くことにした。

(聴き手:佐野 卓郎)

佐野:リバネスに来たのはいつ頃でしたっけ?

高橋:2007年のことでした。基礎研究を子供やいろんな人たちに伝える場所があれば面白いなとWebを探していたら、偶然、リバネスのライティング(冊子制作)インターンを見つけたんです。面談で代表の丸さんとも話をしたんですが、「折角だし、書いてみたら」っていきなり言われて、高校生向けサイエンス誌「someone(サムワン)」の記事を任されたんですよ。

佐野:それは、結構無茶してますね。

高橋:ベンチャーの速度を感じましたね。判断が早いなと。当時はまだみんな20代で、大学生みたいなノリもありましたし。

佐野:ところで、なぜ「基礎研究」を伝えたいと思ったんですか?

高橋:研究室にいると修士の学生も研究をしているのですが、多くの人が就職のための2年間を過ごしているんです。「修士くらいは出てないと」と考えるわけですね。なんか勿体ないなって感じたんです。大学や修士進学前に、もっと自然科学に興味を持ってもらえる機会とか、それを突き詰めていきたいと情熱を抱けるような環境をつくっていければ、修士2年間の研究はもっと実のあるものになるだろうと思いました。

佐野:高橋さんは修士の時点では、就職とか意識しなかったんですか?

高橋:私は修士に進学する時点で、博士まで行こうと決めていました。そもそも就職自体に興味がなかったんです。アカデミアに残って研究をやり続けようと思ってました。

佐野:なぜそんなに研究が好きなんですか?

高橋:色々と自分で工夫して新しいことを発見するプロセスが好きなんです。世の中にある分からないことをひとつでも知りたい。だから研究、特に基礎研究がしたかったんです。

佐野:なるほど。「基礎研究をしたい」となると、やはり大学などのアカデミアに残りたいと考えるのが普通だと思いますが、なぜリバネスを選んだんですか?

高橋:私自身は基礎寄りの研究者ですが、当初、企業は基礎研究をするところではないと考えていました。企業は実用化に向けた研究をするところだと思っていたんです。経営上必要なテーマに縛られて研究するという意味では、企業の研究員にはきっと独創性は求められないだろうし、自分には向かない。だから、アカデミアに残るべきだという一義的な考えを持っていました。
一方、博士課程に入って、アカデミアについて色々なことを知りました。たとえば、大学でもある程度のポジションにつかないとやりたいことができないということ。そのために必死にポジションを狙うのは、なんか違和感がありました。
そんな中、リバネスに出会ったわけです。リバネスだったら普通の企業とは違った角度での研究もできるし、インタビューを通して研究者とつながれる。今まで自分ができなかったような研究ができるんじゃないかと思ったんです。

リバネスに入社した基礎研究者の高橋さんが、その後、どのようなビジョンをもつに至ったのか。

佐野:リバネスに入って、最初に手がけた仕事は何でしたか?

高橋:高校生向けサイエンス誌「someone(サムワン)」など定期刊行冊子の作成や実験教室、海外出張などもありましたが、一番印象深いのは「リバネス研究費」ですね。とても思い入れがあります。熱があって先進的な研究テーマを掲げる様々な若手研究者と知り合うことができました。「この人たちとどんなことを起こしていこうか」と妄想が広がりましたね。私にとっては結構な財産です。

佐野:現在は、「超異分野学会」を手がけていますが。

高橋:はい。リバネス研究費も含め、リバネスでは多くの研究者に出会います。面白い研究者をたくさん集めて、それぞれの研究の魅力を伝え合う。もちろん、皆さん分野が違いますから、分かりやすく魅力的に。
超異分野学会(最初は交流会だった)はリバネス設立時からあったもので、引き継いだ当初はやらされ仕事でした。でも第5回から意識が変わりました。どの研究が、どのようにつながるとコトが進んでいくのか。どうしたら共同研究がはじまっていくのか。その仕掛けを考えていこうと思うようになりました。

佐野:分野を超えたコミュニケーションはとても大切ですね。

高橋:ただ会って話すだけでは何も起こりません。分野を超えたコミュニケーションの深度を高め、お互いに踏み込んでいくことで、きっと何かが生まれてくるはずです。それって、どんなものなんだろうとワクワクしますし、それが超異分野学会で見えてきたらと考えています。

佐野:今後はどんなことを仕掛けていきたいと思いますか?

高橋:研究をデザインする「ResQue(レスキュー)」というサービスを展開し始めています。大学、企業など組織の違いや、細分化された分野の隔たりによって点になっている研究を、出会わせ掛け合わせることで、研究に新しい流れのようなものができればと考えています。特に、企業と大学の研究の垣根がもっと低くなればよいのにと思っています。もちろん、目指すところが違うので難しい部分もあるとは思いますけどね。

佐野:最後になりますが、これからの「研究」について、どのように考えますか?

高橋:昔の研究では、様々な現象や物質・物体をバラバラに分解していましたが、現在は、統合する方に向かっているような気がします。知るための方法ですけどね。これまでバラバラにしたものが、どう組み合わさると機能するのかとか、物理分野では早いタイミングでこうしたことが起こっていたのかもしれませんが、ビックデータ処理やシミュレーションなどコンピュータの発達でできることも増えてきています。今や、臓器をつくるといった研究もされていますし。
知識を組み合わせ統合するためには、違った分野のひと同士がお互いの知識を交換し合う必要性があります。ビックサイエンスを作れるひとも必要になってくるでしょう。
今や研究は、自分一人で進めるのは難しく、違ったアイデアを持った色んな研究者の仲間が必要になっているわけです。
こうした人や知識をどうやってつなぐのか。その仕組みをつくることこそが、今世紀以降の世界におけるもっとも重要な研究テーマであり、機能であると考えます。

リバネスは通年で修士・博士の採用活動を行っています。 詳しくは採用ページをご確認ください。