インタビュー

「わからない」に挑む人に好奇心は宿る。

「今の自分」を「次の自分」へと広げていく原動力。

石尾 濱口さんがプロジェクトのリーダーを務めているSCL(Startup Creative Lab:神戸市などと共同で手掛けているライフサイエンス系スタートアップ向けのインキュベーションラボ)、順調に成長していますよね。オープン1周年で開催したイベントも盛り上がっていましたし。

濱口 おかげさまでSCLにはオープンから1年で11社のスタートアップが入居しました。2022年から新たに3社入ることも決まっています。

石尾 SCLは入社早々にリーダーに抜擢されていましたが、当時は博士課程を終えてリバネスに入社したばかりで、ラボを設計する経験があったわけでもなかったですよね。

濱口 ずっとバイオ系の研究をしていたので「ラボを使う側」ではありましたし、研究とビジネスをつなぐことで、研究の成果がきちんと社会に出ていく仕組みをつくりたいという思いもありました。ただ、「自分が研究の環境をつくる側になる」という発想はそれまではなかったですね。

石尾 それでもやりきった。側から見ていて率直に「すごいな」と思っていました。

濱口 先輩たちにアドバイスをもらいながらではありましたが、自分でもよくやったな、と思います(笑)。でも正直なところ、最初のうちは全く明確なイメージがないまま突き進んでいた感じでした。

石尾 どこかで意識が変わるきっかけがあったんですか?

濱口 具体的に物事を進めていくなかで、少しずつ自分の中で「こういうことかな」というイメージができていった感じです。例えば、ラボはただ単に実験機器を揃えれば完成、ということでは全くありません。入居者はどういうスタートアップをターゲットにするのか、収支を考えると何社集める必要があるのか、どこに声をかければ集めることができるのか。そうやって具体的に考えることを通じて、自分の認識や視野がどんどん広がっていくのがめちゃくちゃ面白かったんです。

石尾 おおー、なるほど。

濱口 また、インキュベーション施設である以上は、ただ研究ができるだけでは不十分で、事業化がきちんと進む必要もあります。例えば研究の連携がそこで起こるとか、資金調達がスムーズに進むとか、SCL自体が人材のプールになるとか。つまり、ただ単に「研究の環境」をつくるのではなく、「研究の成果がきちんと社会に出ていく場」をつくることで、いかにしてSCL全体の研究開発の成果と事業化のスピードを上げていくか、ということに今は意識が向いています。

石尾 それはまさに、濱口さんがずっと抱いていた思いでもありますね。

濱口 そうなんです!最初はSCLと自分の思いがうまくつながっていなかったのですが、「インキュベーションラボはどうあるべきなんだろう」ということを追究していく中で、少しずつそこが見えてきました。プロジェクトが始まった頃とは、自分のマインドが本当に違うものになっていますね。で、今になってみると、その違いを生み出す原動力になったのが好奇心なのかな、という気がしています。

石尾 その感覚は僕もわかります。好奇心って「その時の自分のまま」では見える範囲に限界があるんだけど、そこから一歩踏み込むことで一気に広がっていく、という感じがしませんか。やってみないと見つけられないもの、というか。そして一度自分の中で好奇心が広がり始めたら、あとはもう飛び込まずにはいられないし、ワクワクが止められなくなるんですよ。

未知に飛び込むことで、好奇心の「弾み車」が回り出す。

濱口 石尾さんは、もともと好奇心が旺盛な感じがしますよね。学生時代から国際開発サークルに所属して、マーシャル諸島やベトナムなどで現地の課題を工学の力で解決する取り組みをしていたということも聞きました。

石尾 確かに、学生時代はいろいろなことをしましたね。海外での活動のほかにも、福島県川俣町でシャモロボコンを開催したり。まさに「一歩踏み込む」経験を数多くできたのですが、そこで未知の領域に飛び込む楽しさを覚えたことで、自分の好奇心がどんどん開発されていった気がします。好奇心の弾み車が回っていく感覚というか。

濱口 どういうことですか?

石尾 海外や福島での活動は、もちろん好奇心もあったのですが、最初は「何か大きなことをしたい!」という学生ならではの勢いに後押しされたところも多分にあったんですね。ずっと受け身の勉強しかしてこなかったフラストレーションの反動というか。例えばマーシャル諸島に行ったのも、授業でマーシャル諸島に関するレポート課題が出たときに、「現地も見ずにレポートが書けるか!」と思ったのがきっかけですから。

濱口 それはまた、ものすごい勢いですね(笑)。

石尾 ただ、最初は勢いまかせの部分もありましたが、実際に現地を訪問して、地元の課題などに触れていくうちに、純粋な好奇心によって動かされている自分に気づくわけです。例えば「この地域の人々の幸福の源泉はなんだろう」とか「日常生活中における困り事はなんだろう」とか。実はそうした体験がきっかけで、僕は博士2年の時に研究テーマを「太陽光発電システム」に関するものから「ウェアラブル端末を用いた人の感情とストレスのモニタリング」に変えたんです。

濱口 ずいぶんガラッと変えましたね・・・。

石尾 最終的には、地域の方々にウェアラブルデバイスを装着していただいて、自律神経の活動をモニタリングすることで、いつ、どこで、誰と、何をしている時にどのような感情なのかを推定するシステムを開発しました。好奇心が好奇心を呼び、いてもたってもいられなくなった結果です。こんな僕の活動に一緒に乗っかってくれた仲間や、いろいろとご迷惑をおかけしたにも関わらず見守ってくれた指導教員の先生には本当に感謝しています。

濱口 そうですね。本当に仲間と恩師に恵まれていますね。

石尾 はい。ただ、リバネスに入社した当初の僕は「興味のないことはやりたくない」という感じで、まだまだ好奇心の幅が狭く、選り好みするタイプの人間でした。

濱口 えっ、それは意外です。

石尾 例えば、テックプランターに出てもらう研究者の発掘も、最初の頃は正直なところ「やりたくないな」と思っていました。いくら自分が博士号を持っているとはいえ、大学を出たばかりのわれわれが異分野の先生と面談してテックプランターへの参加や研究の事業化を促すというのは、やはりハードルが高いじゃないですか。

濱口 そうですね。その感覚は今でもあります。

石尾 それでも、その先生のことを調べているうちに、何かしら自分の専門とつながる部分であったり、自分自身の体験と重なる部分が見えてきて。一度その境地まで辿り着くことができれば、そこから先はとにかく面白くて、止められなくなるんですよ。

濱口 確かにそうかもしれません。そして、自分自身がワクワクしながら取り組んでいると、そのワクワクは相手にも伝わるんですよね。逆にいえば、自分が面白がっていないと、相手にも面白がってもらえない。私の好奇心は、相手にも伝わるんだな、と思います。

リバネスで「面白さを諦めない」という精神を注入された。

石尾 リバネスは次から次へとプロジェクトが始まるので、正直大変なところもあります(笑)。ただそれは同時に、自分が知らない世界に触れる機会が多いということでもあって。

濱口 自分の中に、好奇心のフックがどんどん増えていく感覚はありますね。

石尾 僕はリバネスに入ったことで、どんなことに対しても「絶対に面白いところがあるはずだ!」と信じる体質になってきた気がするんですよ。「面白さを見つけるまでは諦めてなるものか」という精神を注入されたというか。

濱口 私もそうです。意地でも面白がってやるぞ、みたいな。

石尾 最初はその意識を先輩たちに促してもらっていたんだけど、今では自分からどんどん仕掛けていけるようになりました。

濱口 それでいうと、石尾さんがリーダーを務めていて、私もチームの一員として取り組んでいる「先端研究マッピングサービス」は、まさにその仕掛けていくスタンスが表れているような気がします。

石尾 先端研究マッピングサービスでは、まず最初に日本の研究.comで何パターンかの関連キーワードで検索をかけて、出てきたリリースや研究課題に全て目を通すわけです。領域によっては数百件から数千件に及ぶこともあるわけですが、そうやって一気に網羅的に見ていくことで全体感が掴めるのと同時に、自分の中で「これとこれを組み合わせるとこういうことが起こるんじゃないかな」という仮説が生まれてくるんです。これが僕にとってはたまらなく面白いことで。

濱口 私が調査をしていて面白いなと思うのは、最先端のアカデミア研究の調査と企業の新規事業には一見つながりがない、ということなんです。でも実際には、研究が盛り上がっている領域というのは、現時点では事業とのつながりが見えなくても、次のタイミングでは必ず事業化していきます。つまり先端研究マッピングサービスは、研究の調査を通じて、企業の「次の事業」を一緒につくれているという実感がある。ここがものすごくワクワクするところです。

石尾 僕は密かに、先端研究マッピングサービスの構築を通じて、「研究テーマを新たに立ち上げる方法論」を形にすることができないか、と考えているんです。さらに、僕は今リバネスで製造開発事業部に所属していて、町工場の方とのつながりもあるので、新たな研究テーマにものづくり側の知識を組み合わせることで一気に「実験装置の実装」まで持っていけるのではないか、というイメージもあります。もしそれが実現すれば、日本における研究の加速に貢献できるはずだ、という思いがふつふつと湧いているんです。

濱口 それは面白そうですね!最初はもやもやとしているものが、自分が一歩踏み出すことで少しずつ輪郭がはっきりしていくというのは、なんともいえない気持ちよさがありますよね。

石尾 まさにその通り!なので、これからもリバネスでいろんなことにチャレンジしていきたいですね。(2022年1月7日)


濱口真慈(はまぐち・まちか)/大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(理学)。生物が生きる仕組みに感銘し、分子生物学、神経科学を中心に細胞培養からモデル動物を用いた研究を行ってきた。薬事承認などハードルの高い、バイオ・メディカル領域の研究や事業が加速する仕組み作りを目指す。科学技術をベースとして事業化を目指す研究者等の創業期前後の伴走を行うプログラムTECH PLANTERのうちメディカル領域に力を注ぎ、ウェットラボとして使用可能なインキュベーション施設づくりにも従事している。

石尾淳一郎(いしお・じゅんいちろう)/東京工業大学国際開発工学専攻博士課程修了 博士(工学)。 工学から生理心理学まで、興味のある分野には躊躇なく飛び込む。学生時代は国際開発サークル(IDAcademy)にて国の内外を問わずものづくりプロジェクトを実施。足踏み式扇風機やシャモ型ロボットバトル「シャモロボコン!」などプロダクトやイベントの開発に情熱を捧げ、博士時代はwell-being研究(特にemotional well-being)をウェアラブル端末を用いて実施。故郷香川県にて香川テックプランターと超異分野学会 香川フォーラムの立ち上げを行い、地域から世界を変える事業を創出するため奮闘中。