インタビュー

人は誰もが「好き」を追究して実行する力を持つ。

みんなを笑顔にする教育は、僕の天職だ。

藤田 前田さんは、学生時代に心理学を学んでいたんですよね。

前田 そう、私、大学も大学院も米国なんですが、心理学のなかのHuman Factors Psychologyという分野を専攻していました。日本語にすると人間工学心理学ですね。

藤田 心理学的には、今回のテーマである「好奇心」はどのような解釈になるんですか。

前田 ある心理学者は「拡散的好奇心」と「特殊的好奇心」に分類しています。前者はその名の通り、興味の範囲がどんどん広がり、色々なことを知りたくなる欲求のことで、後者は特定の事象に対してもっと深く知りたい、追究したいと思う気持ちのことを指します。

藤田 前田さんはどちらが強いのですか。

前田 どうだろう、どちらもそれなりにはあると思います。大悟さんは拡散的好奇心が強そうですね。

藤田 自分でもそう思います。常に新しい人たちに出会って、新しい企画を生み出し実行してきました。

前田 大悟さんが最初にリバネスに関わったのは、たしかインターンですよね。

藤田 そう。2003年当時は、祖業の実験教室が主要事業でした。リバネスの実験教室は、毎回出会う子どもたちが異なるので、内容も毎回ゼロイチで企画します。僕が知らない企画は、入社前の14回だけ。以降の約1,000回のうち、僕が企画開発したものだけでも、200回は超えると思います。

前田 まさに、藤田大悟といえば実験教室ですね。

藤田 実は僕が教育に関わり始めたのは、大学1年のときなんです。東工大でScience Technoというサークルを立ち上げて、日本科学未来館で科学教育を行うボランティアをやっていました。

前田 当時から実験教室を手掛け続けてきたのは、すごいことです。

藤田 最先端の科学に触れて子供たちがきらきらと目を輝かせるのを見て、そういう場をずっと作り続けなければいけないと思ったんです。自分の人生を振り返ってみると、ボーイスカウトにしても演劇部の大道具係にしても、昔からみんなを笑顔にする企画や場を作ってきたんだな、と。僕の人生における使命って「人を笑顔にすること」なんだって気づいたんです。

前田 大悟さんの原動力、ということですね。ちなみに、何故リバネスに入社したのでしたっけ。

藤田 研究者自らが科学をわかりやすく伝えるというボランティアはとても有意義なものでしたが、「この活動を仕事にすることはできるのだろうか、いや難しいよね、でもNPOならできるのかな」、なんて仲間うちで話していたんです。そうしたらちょうど時を同じくして、バイオ教育で会社立ち上げた学生ベンチャーがあるという話を聞いて、「そんな人たちがいるんだ!」と驚いて。

前田 それでリバネスに飛び込んだんですね。

藤田 実際に会いに行ってみたら、僕と同じように全員が学生でした。「これをずっと仕事として続けることができるのだろうか」という問いに対する答えは見えないままでしたが、とにかく面白そうだったことは間違いなくて。それでインターンを始めてみたら、まんまと夢中でのめり込んでしまって、今に至ります。

前田 大悟さんの場合、教育を通してより多くの人たちの笑顔をつくるために、結果としてベンチャー企業という選択肢が最短ルートだったんですね。

藤田 はい。親には将来性について心配をされましたが、飛び込んでよかったと思っています。完全に、好奇心と勢いです(笑)。

好奇心が行動に昇華する仕組みを研究中。

藤田 前田さんは、入社して最初の頃は高校生や大学生、大学院生などを対象に、海外研修プログラムを担っていましたよね。

前田 はい、私自身、米国に留学し博士号を取得したこともあり、そういうジャンプができるような学生をもっと日本から増やしたいと思っていました。

藤田 「ジャンプ」ですか。

前田 実は私、高校時代から、周りに誰も知っている人がいない場所で生活してみたいという野望があったんです。実家が本屋を営んでいたので、卒業したら長女の自分は家業を継ぐものだと思い込んでいた頃もあったのですが、きっと「そうではない世界」もあるのではないか、と。そういう場所でいわば修行をすると、どんなにすごいことが自分に起きるんだろう、といった好奇心に駆り立てられて。

藤田 そう思えたのは、大きな転換点だったかもしれませんね。前田さんが企画した海外研修プログラムに参加した学生たちは、広大な大学キャンパスを自ら歩いて研究室訪問したり、シリコンバレーの新興ベンチャー企業でプレゼンをしたりしたのですよね。 

前田 そうなんです。みんな、何かを見たり体験したりするたびに目をきらきら輝かせていたし、行く前と後では表情が別人のように変わりました。自分のやりたいことが、どんどん洗練されていくのを目の当たりにしました。

藤田 刺激を得るきっかけづくりをしてきたわけですね。

前田 けれども、私の仕事はあくまでプログラムを企画・実施することだったので、生徒たちのその後を追いきれなかったのが心残りでした。刺激を受けたとしても、それで終わったら意味がないのです。リバネスのビジネスとしても、関わった子供たちの成長の軌跡をたどっていくのは壁があったと思います。

藤田 確かに、何かに触れて興味や関心を抱いても、誰もが行動に移せるわけではありません。

前田 ひと口に興味や関心を持つといっても、いろんなパターンがあると思うんです。見たり触れたりした瞬間、「わー、すごい。面白そう。やってみたい」と盛り上がることもあれば、「なんだかちょっと気になる。どうしてなんだろう」くらいのこともあります。前者を「ワクワク」という言葉で表現するとしたら、後者は「もやもや」といえるかもしれません。

藤田 「ワクワク」のときはすぐに行動を起こすでしょうけど、「もやもや」だとそうではないかもしれません。

前田 そうなんです。「もやもや」程度だったら、多くの人は行動にまで移さないと思うんです。それで、時間の経過とともに興味や関心は萎んでいってしまう。だから、そんなときは、どこかのタイミングで何か刺激を与えたり、背中を押したりすることが大事ではないかと。そうすれば「もやもや」が「ワクワク」に変わり、行動につながるのではないかと思います。

藤田 それが、前田さんが近年取り組んでいるという「ワクワク研究」ですね! 

前田 はい、大悟さんがリバネス内に立ち上げた教育総合研究センターのセンター長を2018年に受け継ぎ、社会心理学の研究者である正木郁太郎先生と一緒に研究を続けています(参考記事:東京女子大学・正木郁太郎×リバネス井上浄「自分主人公感、先生主人公感のススメ!」)

藤田 この研究に対して、前田さん自身がワクワクしながら取り組んでいるのが印象的です。ちなみに、どのような成果が出ているのですか。

前田 興味や関心を主体的行動に結びつけるには、何が必要なのかを探ってきました。全国の学校の先生に協力を仰いで、数千名の生徒の行動や価値観に関するデータを集めて解析し、そこから主体的行動につながる因子を抽出して見える化したんです。それを私たちは「ワクワク」指標と名付けています。

藤田 おお、それは学校教育の現場で活用できそうですね。

前田 中学でも高校でも、現場の先生方は知識や技術だけを学べばそれでいいと思っているわけでは当然ありません。他人とコミュニケーションを図れるとか、社会に対して関心を抱くとか、主体的に行動できるとか、そういう力を身につけてもらいたいと強く意識されています。ただ、これまではそういう力を測定するツールが存在しませんでした。学力テストでわかるのは、あくまで勉強の部分に限られますし。私たちが手掛けた「ワクワク」指標は、それらの非認知能力の一部を可視化、定量化するものなので、実際の教育現場でどんどん活用してもらいたいです。

藤田 すでに2021年に経済産業省のEdtech導入補助金の交付決定事業者に認定されて、いくつかの学校に導入してもらっていると聞きました。普及すれば学校教育に一石を投じることになりそうですね。

前田 はい。ワクワク研究の取り組みを広げ、多くの先生がワクワクの観点も考えながら教育に取り組めるようになることを目指しています。そうすれば、こどもたち一人ひとりが、自分の興味に対し主体的に取り組み、未来を掴んでいく世界が実現すると思っています。そんな未来に、私自身が一番ワクワクしています!

子供も大人も好奇心に正直になれる世界を

藤田 ところで好奇心の話に戻りますが、好奇心にはどのような力があるんでしょう。

前田 難しい質問ですね。リバネス人にしても、子どもたちにしても、好奇心が向かう方向は一本道でなくてもいいし、それは曲がってもいいと思っています。それに私は、何かを極めるにしても、「横の視野」は持ち続けるほうがいいと思うんです。スポットライトのように視野を絞り過ぎてしまうと、すぐ隣で起きていることも見えづらくなるので。

藤田 たしかに、大学の先生もそうですが、専門性を深く深く究めている人ほど、色々なことを探究しているようにも思います。前田さんの場合だと、事業部だけ見ても人材、国際、そして教育開発事業部と変遷してきましたよね。

前田 はい、そのなかでも自分の軸はあまり変わっていないと思います。昔から、一人一人が持ってる興味関心というものを、掘り下げ極めていけるっていうような世界を実現したいなと強く思っていて、それは今でも変わりません。

藤田 前田さんが近年立ち上げた新規教育プロジェクトも、そのような想いが込められていたのですね。

前田 そうですね。2020年に始動した国際共同研究プロジェクト「Tsunagu Research Project」では、日本・シンガポール・マレーシア・フィリピンそれぞれの現地校が、土や農業といった共通のテーマに対してチームを組んで研究を行います。コロナ禍で探究活動や海外研修が軒並み中止になってしまい、学校からの需要は高いです。 

藤田 そうした活動は子供たちの好奇心を育む礎だから、どんなに難しい状況であっても、教育を止めてはいけない。僕たちのポリシーですね。実は僕も前田さんに負けじと、かねてからずっと挑戦したかったことを1月26日に実行しました。

前田 そうだ。プレスリリース見ましたよ!

藤田 はい。藤田大悟、ついに会社を立ち上げました。高校時代から40歳になったら、みんなを巻き込んで新しいことをやると宣言し続けてきたんです。 

前田 おめでとうございます!いよいよですね。

藤田 創業期のリバネスにジョインしてから19年間、教育をビジネスにし、持続可能な形にするために試行錯誤を繰り返しました。2011年に小学生向けのロボット教室ロボティクスラボを立ち上げ、2016年からはJST「ジュニアドクター育成塾」委託事業でカリキュラム開発を行ってきました。

前田 小学生でも、大学レベル以上の研究やものづくりに取り組み、学会発表や論文投稿の成果もありましたね。

藤田 はい、好奇心さえあれば、年齢に限らず才能を開花させることができると気づいたのです。こうした背景から、「誰もが好きを究める“大人”になれる世界を実現する」を理念に、小中学生の才能育成に特化した「株式会社NEST EdLAB」(ネストエッドラボ)を設立しました。 

前田 素敵な理念です。

藤田 小さい頃から「好き」に正直に生きることを全肯定されれば、大人になっても情熱を大切に生きることができます。そのような寛容な世界を作りたいと、本気で思っています。僕自身、好奇心のままに生き、リバネスで才能を開花してもらった大人の一例なので、絶対うまくいくはず!

前田 「好き」を仕事にした大悟さんを尊敬します。経営者としての新たな挑戦に、私もとてもワクワクしますし、大人にも次世代にも好奇心の輪が広がっていくのが本当に楽しみです。

藤田 ありがとうございます。これからも一緒に、仕掛け続けましょう。(2022年2月8日時点)


前田 里美(まえだ・さとみ)/高校を卒業後、渡米。Wright State University で人間工学心理学の修士、博士を取得。2010年にリバネスに入社。入社当時は、人材開発事業部に所属し人材育成企画開発に携わる。2013年5月から国際開発事業部で、教員研修、中高生の国際教育企画の開発に従事。2018年4月から、リバネス教育総合研究センターのセンター長として、非認知能力の評価系と育成の研究を、学校現場の先生方と一緒に取り組む。2020年4月より教育開発事業部。研修開発実績として教員研修「生徒が主導する学び〜ブレンディッド・ラーニングを学ぶ教員研修」「アクティブラーニングを活用したグローバルリーダー育成プログラム」、大学生・大学院生向け研修「世界に変化を起こす人になる実践ワークショップ 〜「できない」の壁を乗り越える」など。最近の週末は、地域野球チームの指導と、野球ママたちの体力促進に全力投球中!

藤田 大悟(ふじた・だいご)/東京工業大学大学院生命理工学研究科修了、修士(理学)。専門はタンパク質工学。子どもの頃から科学と自然が大好きで、ボーイスカウトで富士章を取得、東葛飾高等学校時代にアマチュア無線、電子工作、演劇の照明などに挑戦。東京工業大学に入学と同時に、毛利衛館長の下で日本科学未来館のボランティアの立上げに関わり、科学イベントサークル東工大Science Techno設立、初代代表を務める。 リバネスには創業間も無く参画し、様々な分野の教育開発に従事。 国際宇宙ステーションを活用した『宇宙教育プロジェクト』、小学生向けのロボット教室『ロボティクスラボ』、吉本芸人とコラボした『おもろふしぎラボ』、日本テレビの『リアルロボットバトル』の企画監修、その他100社近い企業の教育プログラム開発を手がける。JSTのジュニアドクター育成塾においては、プログラム開発及び、ドクターコースの責任者に従事し、本事業を加速すべく、株式会社NEST EdLABを創業。

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