インタビュー

リバネスはヘンな会社。でも僕は「普通」には興味がない

入社数カ月後に新会社を立ち上げ、代表に就任。

─ 日本語、本当に上手ですよね。

イェブ 来日してもう8年経ちますからね。あとは、まあ、かなり勉強しました(笑)。

─ イェブさんは2020年5月に入社したばかりですが、今はリバネスフィリピン(Leave a Nest Philippines, Inc. )の代表も兼務しているんですよね。

イェブ はい、今年3月にリバネスフィリピンを設立しました。

─ 入社1年も経たずして新会社設立って、なんだかよくわからないのですが(笑)。

イェブ 確かに、普通の会社ではありえないかもしれません(笑)。

─ 入社当初からフィリピン法人を設立する話はあったんですか。

イェブ はい、丸さんから聞いていました。リバネスは以前から東南アジアでビジネスを展開していて、すでにリバネスシンガポールリバネスマレーシアがあって、次はフィリピンにも現地法人を置きたい。それをフィリピン人であるイェブにやってもらいたいと。それは僕自身の希望でもありました。ただ、すぐにできるとは思っていませんでした。しばらくは国内で経験を積み、いろんなことに慣れたらという感じなんだろうと。

─ ちょうど新型コロナが猛威をふるっていた時期ですしね。

イェブ そう、フィリピンもロックダウンしていました。

─ でも、その数カ月後に実現に至った。

イェブ 当時は日本国内の案件を担当していたのですが、丸さんの顔を見るたびに「早くフィリピンに会社を作りましょう」と言っていたんです(笑)。そうしたら、思っていたよりも早いタイミングで「やってみろ」と。真意はわからないですが、「イェブがそこまでやりたいなら」と思ってくれたのかもしれません。

─ 自分の希望だったとはいえ、いざ新会社をつくるとなったときには「大変なことになった」と思いませんでしたか。

イェブ 当然、会社を立ち上げた経験なんてないわけだし、まったく不安がなかったといったらウソになります。でも、決まったからにはやるしかないですからね。とにかくやれるところまでやってみようと思いました。

丸さんの講演を聴いてリバネスを知った。

─ そもそもイェブさんはどういう経緯でリバネスに飛び込んだのですか。

イェブ もともと僕は熊本大学大学院の薬学教育部に留学していたんですね。来日前は、フィリピン大学で化学の研究を行っていたのですが、お世辞にも良い研究環境とはいえない状況でした。今は改善されたかもしれませんが、当時は国が科学技術の育成に積極的でなかったこともあり、国立大学といえども研究予算が限られていて。場合によっては、自分で試薬を購入して実験したりしていたんです。そんなときに、熊本大学の大学院に『HIGOprogram』という留学制度があると知りました。日本なら思う存分研究ができるだろうと考えて、応募したんです。

─ そこからなぜリバネスに?

イェブ 最初のきっかけは、丸さんの講演を聴いたことです。日本に来て2〜3年目だったと思いますが、丸さんが熊本大学で講演を行ったんです。そこでいろいろな話を聞いて、「自分もこんな会社で働いてみたい」と思いました。

─ こんな会社というのは?

イェブ 僕は研究者を目指していましたが、一方で、ビジネスの現場で働いてみたいという思いもあったんです。特にサイエンスコミュニケーションの分野に興味がありました。科学技術の素晴らしさを、世の中の人々に伝えるような仕事に携わってみたいと。丸さんは、まさにそんな話をされたんです。いくら研究者が努力してもそれだけでは世の中はよくならない、誰かが研究現場と社会の橋渡しをしなければならない、その役割をリバネスが担っていくんだと。

─ なるほど。そのときはアクションを起こすには至らなかった?

イェブ いえ、すぐに連絡を取りました。当時、僕は博士課程で学んでいたのですが、HIGOprogramのカリキュラムにインターンシップがあったんですね。それなら丸さんのもとで働こうと考えて、リバネスのインターシップに応募したんです。でも、残念ながらそのときには良い返事がもらえませんでした。

─ そうだったんですね。ただそれでも、博士号取得後に再度アプローチを?

イェブ 実は、一度は外資系のビジネスコンサルタント会社に就職しました。でも、サイエンスコミュニケーションの仕事がしたいという思いがやはり強くて。それで1年半が経った頃、リバネスにもう一度連絡をして、今回は入社することができたんです。

─ 5〜6年越しで、ついにリバネスに入ることができた。

イェブ そうなんです。だから、入社が決まったときはうれしかったですね。

フィリピンの科学技術の発展に必ず貢献したい。

─ 今はリバネスフィリピンを軌道に乗せるために奔走しているという感じですか。

イェブ はい、すでに現地メンバーを2人採用して、3人体制で動いています。とはいえ僕はずっとフィリピンに滞在しているわけではなく、日本と行ったり来たりしていますが。こちらでもやることがあるので。

─ 現地で採用活動を行ったわけですね。

イェブ フィリピン大学の協力を得たりして、リクルートのためのキャリアセミナーを5回ほど開催しました。リバネスの理念や事業を理解してもらうのは簡単ではありませんでしたが、それでも15人ほど応募がありました。まずは2名を採用しましたが、近いうちに5人体制くらいにできたらと思っています。

─ リバネスフィリピンの現在の主な業務について説明してもらえますか。

イェブ リバネスにはTECH PLANTERというプロジェクトがあります。ベンチャー企業や大学などが行っている研究には、いろんな可能性を秘めているにもかかわらず、社会ではまだ活用されていないものがたくさんあります。そういう埋もれている科学技術の芽を発掘し、社会実装に向けて道筋をつけるというものです。このプロジェクトは日本国内のみならず、東南アジアでも展開しているのですが、フィリピンの案件に関してはフォローしきれていないものも多いんです。そこにしっかりとハンズオンして推進するというのが僕たちの役割です。将来的にはいろんな業務を手掛けたいと思っていますが、今はTECH PLANTERに注力しています。

─ そのプロジェクトの対象は日本企業? それともフィリピン企業?

イェブ 両方です。日本企業とフィリピンのベンチャーとの連携を支援する案件もありますし、フィリピンのベンチャーを支援する案件もあります。

─ まだ設立して半年ですが、いけそうだという感触はつかめましたか?

イェブ 先日、フィリピン政府の行政機関である科学技術省の担当者と打ち合わせをする機会があったのですが、リバネスの取り組みに強い関心を抱いていました。僕たちが真摯に取り組みさえすれば、フィリピンの科学技術の発展に貢献できると確信しています。

最初から何もかもうまくいったら、つまらない。

─ リバネスフィリピンの代表として、社内からのプレッシャーはありませんか。

イェブ いや、そういうことはほとんどないんですよ。丸さんも他の人も、イェブの好きなようにやってくれという感じで(笑)。もちろん僕自身は、早く結果を残さなければならないと思っていますが。

─ 確かに、こうやって話していても重圧を感じているようには見えません。今の状況を楽しんでいるように見えます。

イェブ いや、本当はきついこともありますよ。どうすればいいのかわからなくて、頭を悩ませることはしょっちゅうです。でも、最初から何もかもうまくいったら、それはそれでつまらないじゃないですか。いろいろな困難に直面しながら、それを乗り越えていくほうが楽しいというか。そのほうが達成感もありますし。僕はそういう人間なんですよ。

─ 考え方がすごくポジティブですね。

イェブ でも、それ、僕だけじゃないんですよ。この会社はそういう人が集まっている。年齢とか経験とかにかかわらず、ある日突然、大きなプロジェクトを任されたりするので、何事にもポジティブに向き合える人じゃないとやっていけないというか。

─ そういう企業風土がイェブさんには合っていそうですね。

イェブ そう思います。リバネスって、ほんと、ヘンな会社なんですよ。そうとうヘン(笑)。でも、僕は「普通」には興味がなくて。「普通じゃない」ことが好きなので、ぴったりなんです。

─ 最後に、今後の目標について聞かせてもらえますか。

イェブ 僕はフィリピン人なので、やはりフィリピンの発展に貢献するというのが最終的な目標です。フィリピンは決して豊かな国とは言えないし、今もさまざまな課題を抱えています。日本など他国の協力を得て、科学技術の育成を図り、そうした課題を解決に導けるような産業の創出を目指したいと考えています。そしてそのためにも、まずはリバネスフィリピンを軌道に乗せたいですね。(2021年10月15日時点)


Yevgeny Aster Dulla(イェブジェニ・アスター・デューリア)/フィリピン共和国、イロイロ州出身。2010年にフィリピン大学・ビサヤキャンパスを卒業後(学士 化学)、フィリピン大学・マニラキャンパスにて化学の講師として勤務。2013年に来日し、熊本大学・文部科学省のHIGOプログラムに進学。2015年に修士号(健康生命科学)、2018年に博士号(健康生命科学・薬科学)を取得。卒業後は、営業代行等により日本進出支援を担うビジネスコンサルティング会社イントラリンクに勤め、欧米のバイオテクノロジーや医療機器の会社の日本展開をサポートした。2020年5月より現職。教育開発事業部、創業開発事業部を歴任し、2021年よりフィリピン子会社を設立し、代表就任。