インタビュー

「科学技術の社会実装」と「教育」を同時に推進することで、より良い世界を実現する人

世界では3億人以上の子どもたちが極度の貧困状態にある。教育を受ける機会もなく、清潔な水を飲むことさえ難しい人々が大勢いる。その一方で、日本で生まれた人間は、当たり前のように教育を受けることができ、蛇口をひねれば水が飲める。では、“ここ”で育った自分がすべきことは何だろう……。そんな疑問を抱いた海浦 航平がたどり着いたのが、リバネスで「科学技術の社会実装」と「教育」を両軸で推進していくことだった。

海浦 航平(kaiura kouhei)
株式会社リバネス 人材開発事業部。千葉大学大学院融合理工学府先進理化学専攻共生応用化学コース修了、修士(工学)。専門は触媒化学、物理化学。身近な科学技術へのリテラシー向上とDeep Techによる社会課題の解決を目指し、教育開発事業部、創業開発事業部にて、数多くのプロジェクトを推進。同じ志をもつ仲間を増やす活動を加速するために、人材開発事業部にて、リバネスユニバーシティー、企業カレッジの取組を推進する。

科学技術で発展途上国の貢献を模索

海浦さんは2019年に入社し、現在は人材開発事業部に所属していますね。どのようなきっかけでリバネスと出会ったのでしょうか?

JETROが開催していた「ASEANの現状」をテーマにしたセミナーに参加したことがきっかけでした。そのセミナーでは、前川昇平さん(現在はLeave a Nest Singapore Pte. Ltd.取締役兼Leave a Nest United Kingdom Ltd.代表)が登壇して、リバネスが取り組んでいる「インバウンドグローバライゼーション」について話していました。それを聞いて、面白い会社だなと思いました。しかも、よくよく調べてみると、自分も以前読んでいた中高生向けにサイエンスを分かりやすく伝える冊子『someone』の発行元でもある。それでますます興味を持ちました。

リバネスは2016年より、海外のテクノロジーベンチャーを日本に誘致し、日本の町工場によるものづくり支援と、リバネスによる経営・事業化支援を通じて、アジア・欧米マーケットへの進出を目指す「インバウンドグローバライゼーション」のモデルを構築をしてきた。2018年8月16日に公開したリリース

そもそも、なぜそのセミナーに参加しようと思ったのでしょうか?

当時は、大学にこもって研究だけをしているのはもったいないという気持ちで、自分の知見を広めるためにも、教育と途上国をキーワードにセミナーや展示会、イベントに参加していました。その中の一つが、前川さんが登壇したセミナーでした。

いつ頃から発展途上国に興味を?

高校1年生の頃です。私の母校は総合学習に力を入れており、中学高校の6年間で一気通貫した総合学習のカリキュラムが組まれていました。高校1年生の時に「世界の事情を知る」というテーマが設定され、なんとなくの気持ちでMDGsのテーマから飢餓と貧困を選び、それらのテーマで活動しているNPO法人に話を聞きにいきました。世界の現状を知っていく中で、貧困に対して自分ができることはないかと思ったのが発展途上国に興味を持ったきっかけです。

私は神奈川県に生まれて、両親とも教員で、中学受験ができるくらい生活には困ることなく暮らしてきました。安全な環境で義務教育を受けることができる日本で育った私が、そのまま自分のためだけに生きていいのだろうかという疑問を抱いたんです。同時に、「高校卒業後にそれなりの大学に進学し、それなりの企業に就職する」という人生のレールに対して、「それはつまらないな」という思いもありました。

そこからどのような道を選んできたのでしょうか?

まず、日本のものづくり技術を極めることで、発展途上国に何か貢献できるのではと考え、大学は工学の道に進みました。修士課程では、化学反応を利用して効率良いものづくりをするには欠かせない触媒を専門に選びました。光を照射することで触媒作用を示す物質「光触媒」を対象に研究し、『担持型モリブデン触媒のMo=O結合長とプロパン光酸化反応における反応選択性との関係』というテーマで修論を書きました。

日本教育に対するわだかまりと、見えてきた希望

海浦さんが持っている軸として、教育もありますよね?

はい、両親が教員ということで、人生の選択肢として教育は常に頭にあり、理科の教員免許も取得しています。しかし、教育では発展途上国の現状を大きく変えることができないと、早々に見切りをつけてしまっており……。というのも、発展途上国では人もモノも何もかも足りません。子どもたちが安全に学ぶ場を作るためにまずは学校を建設し、その後に教師を育てて、ようやく持続的な教育を提供できるような状況です。仮に自分が大学で教育を学んでも、実際に社会を変えられるスタートラインに立つまでの道のりがあまりに長いと感じ、諦めてしまいました。

そんな海浦さんが、結果的には「教育を原点とするリバネス」に入社することになります。どのような心境の変化があったのでしょうか?

教育に対する思いが変わったきっかけは、大きく3つあったように感じます。ひとつは2017年の教育指導要領の改定です。同改訂は「生きる力」をキーワードに置き、教科学習ではない「探究」に力を入れることを宣言したものになりました。そして、教育の出口である大学受験の形すら変えるのだ、という文部科学省の強い意志を感じました。

実は、私は95年生まれで「ゆとり世代」のど真ん中で学んできました。小学校2年生で土曜授業がなくなり、完全学校週5日制に移行しました。同時に学習内容も大きく変更され、代表的なもので言えば、円周率が3.14から3に変更になった世代です。そんな私たちに対して、世間的には「根性がない」「競争心がない」といったレッテルが貼られたのですが、「自分で選択したわけでもないのに、どうしてこんなに批判されないといけないんだ」という怒りに近い感情を抱いてきました。

2017年の教育指導要領の改定は、自分たちが受けてきた教育を否定する内容ではないこと、そしてゆとり教育の方向性が間違っていないのではないか、という期待を感じました。

また、同世代に羽生結弦さんや大谷翔平さんがいることも心強かったです。大谷さんのマンダラチャートの話は有名ですが、自ら目標を立てて行動し、自らの道を極めることで世界的に活躍するケースが増えてきました。どのくらい影響があったのかはわからないですが、彼らは「基礎・基本を確実に身に付けさせ、自ら学び自ら考える力などの『生きる力』をはぐくむ」というゆとり教育の一つの結果だと思います。また、ゆとり教育が従来の詰め込み教育からの脱却という大きな転換点になったことは間違いありません。

残り2つのきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

ふたつめは、2017年11月に、世界銀行のレポート「イノベーションパラドックス」に出会ったことです。同レポートでは、「科学技術だけあっても途上国は発展しない。リーダー育成と教育が必要だ」という内容が記されています。教育ではなく科学技術が世界を変えると高校1年生の頃から信じて走ってきた私は、「リーダー育成と教育も必要であること」に大きな衝撃を受けました。同時に、日本も含めて科学技術を使いこなせる人はどれくらいいるのだろうか、という疑問も抱きました。そこから「全世界的に科学技術を使いこなせるリテラシーを高めていく必要がある」「それをどう実現できるのだろうか」という考えが生まれました。

そして最後に、2018年頃に日本でも注目され始めた「EdTech」がきっかけです。特に、ネパールのウダヤプル郡リムチュンブン市と連携して市内の公立学校にオンライン授業を提供するNPO法人YouMe Nepalの活動に興味を惹かれ、直接話を聞きに行ったこともあります。脱線ですが、修士2年生の時に出会ったYouMe Nepal理事 藤井昭剛 ヴィルヘルムさんが、その後リアルテックホールディングス株式会社(現・Untrod Capital Japan株式会社)の取締役に就任しており、リバネス入社後に再会しました。これも何かの巡り合わせなのかなと、お互いびっくりしましたね。

これらの3つのきっかけは、「必ずしも学校ありきで教育を考える必要はない」ということに大きな可能性を感じ、「科学技術の社会実装と教育を同時に推進できるんだ」ということに気づくきっかけにもなりました。修士2年生の頃には、やはり自分は教育に取り組むべきだという衝動に駆られていました。発展途上国の子どもたちを考えれば考えるほど、「教育」をやらない理由がなくなっていく。でも、科学技術の社会実装もやりたい。今振り返ると、とても優柔不断な時期でした……(笑)。

そして、教育指導要領の改訂や世界銀行のレポート、EdTechなどの“兆し”を感じ始めた時にリバネスに出会ったわけですね。

そうです。「科学技術の発展と地球貢献を実現する」をビジョンに掲げて、サイエンスの面白さを子どもたちに伝える出前実験教室から始まったのがリバネスです。ずっと私のテーマだった「科学技術の実装」と「教育」の両方を同時期に携わることができる組織にようやく出会うことができたわけです。「ここしかない!」と思って入社しました。

「個人の熱」を重視する組織だから、追い続けられる

現在はどのようなプロジェクトを担当していますか?

研究成果の社会実装を目指すテックプランターのエコテック領域や群馬県に特化した事業の統括や、東日本旅客鉄道株式会社と株式会社リバネスが共同で開発・実施しているJRE Station カレッジなどを担当しています。どちらかといえば、「教育」よりも「科学技術の社会実装」に関するプロジェクトが最近は多いかもしれません。

実際に入社して、リバネスをどのような会社だと感じていますか?

自分がやりたいことを突き詰められる会社ですね。リバネスには「世界を変えるビジネスは、たった一人の『熱』から生まれる」という考えが根付いており、それをもとに仕組みが構築されています。例えば、リバネスではあらゆるプロジェクトが課題解決のためにつくられ、チームはその課題に対する自分なりのQuestion(問い)とPassion(情熱)を持つメンバーで構成されます。つまり、全ての活動が「個」に紐づいているわけです。

「科学技術の社会実装」と「教育」の両方を推進していきたい自分にとって、このようなプロジェクトチームの形成方法は非常に合っていると思います。というのも、私が目指していることは、「教育だけ」や「発展途上国のことだけ」をやっていても達成できません。様々なプロジェクトを推進して、最終的に「大きなことを成し遂げたい」という願いがあります。

ビジネスとしての効率が最優先される会社であれば、おそらくその願いは通らないでしょう。リバネスだからこそ、自分は最大限に力を発揮することができる。そう感じています。

今後、リバネスでどのような挑戦をしていきたいですか?

実は、まだ明確な方向性を決めかねている段階です……。教育のこと、発展途上国のこと、科学技術の社会実装など、やりたいことの軸はあるものの、それだけでは既存の社内プロジェクトで事足りてしまいます。そこにいかに自分の色を足して、自分にしかできないオリジナルなプロジェクトを立ち上げることができるのか。常にそのことを意識しながら日々を過ごすことで、自分のビジョンを見出していきたいと考えています。

海浦さんの情熱からどんなプロジェクトが生まれるのかが楽しみです。本日はありがとうございました!

リバネスは通年で修士・博士の採用活動を行っています。 詳しくは採用ページをご確認ください。