上場企業600社に電話営業をして、初めて気づいたことがある。
「未来」を語るトップに共感して入社を決めた。
─ 武田さんの「伝説」、聞きましたよ。
武田 もしかして、全社プレゼンの話ですか。
─ はい、リバネス入社の最後の関門である全社プレゼンで「自分はカリスマだ」とアピールしたと・・・。
武田 ・・・もう10年前のことなので、あんまり突っ込まないでください(笑)。ただ少しだけ言い訳をすると、当時は留学先のアメリカでPh.D.を取ったばかりだったんですね。なので、怖いものなしというか、傲岸不遜というか、そういうことを言いたい年頃だったんです。
─ ともあれ、アメリカで生物学の研究をして、Ph.D.も取得して、怖いものなしの状態だった、と。そんな武田さんがリバネスに入ろうと思った理由は何だったのでしょうか。
武田 まず、大学の研究は好きだったんですが、それを仕事にする気はなかったんです。
─ なるほど。
武田 それから、就職はアメリカではなく日本で考えていました。それでリバネスの他にも、いくつかの会社の採用試験を受けました。ただ、どの会社でも共通していたのが、役員クラスの方との面談で出てくるのが「過去の話ばかり」ということで。うちの会社にはこんな実績がある、あんな実績もある、と。でも僕としては「将来的にどんなことを目指しているのか」という「これから」の話を知りたかったんですよ。
─ リバネスは違った?
武田 まったく正反対でした。丸さん含めて何人かと話をしましたが「オレにはこんな夢がある」「こんなことをやりたい」「あんなこともやりたい」と、ずーっと未来のことをしゃべっているんです。しかも、めちゃくちゃ楽しそうに。それを聞いているうちに、少なくとも若いうちは、未来を信じて突き進んでいる人たちと一緒に働いたほうが絶対に楽しいだろうと思ったんです。
上場企業の「ア」から順に電話をかけ続けた日々。
─ では、実際にリバネスに入社してからの話を聞かせてください。最初から活躍されていた感じでしょうか。
武田 それが、最初はまったくついていけなかったんです。
─ どういうことですか。
武田 学生時代のことから振り返って話をすると、留学先のラボのボスは「ニッチな領域で思いっきり時間を使って研究する」という戦略を取っていたんです。短期的な成果を求められることがあまりない環境で、僕自身もマイペースで研究に取り組んでいました。ところが、リバネスではいくつもの案件が同時並行で進行して、新しいプロジェクトもどんどん立ち上がるわけです。しかも、次から次にデッドラインが迫ってくる。要するに短いスパンで頭を切り換えたり、アクセルを踏み直したりしなければならない。そのスピード感にうまく適応できなかったんです。
─ カリスマとして入社したはずなのに・・・。
武田 もう「恥ずかしい」の一言ですよ(笑)。で、そのまま半年くらいは何もできずに過ぎてしまって。
─ 普通の会社なら周囲から厳しい目線が注がれるような状況ですね。
武田 でも、この会社はそういう感じではないんですよ。良くも悪くも、そのまま放っておかれるだけ・・・。ただ、さすがに毎日ぼーっとしているわけにもいかないじゃないですか。それで僕なりにどうしようかと考えた結果が、「全力で営業をやる」ということで。リバネスは研究者の集まりということもあって、当時は今ほど会社全体の営業力がありませんでした。そこで自分が営業をして仕事を取ることができれば、少しは役に立てるんじゃないか、と。
─ 具体的にどのようなアクションをしたのですか。
武田 東京近郊の上場企業一覧を見ながら、「ア」から順に電話をかけまくりました。
─ おお、直球の営業ですね。
武田 相手が広報部門なら「someoneという科学雑誌に記事広告を掲載しませんか」、研究部門なら「リバネス研究費を通じてシーズ探索をしませんか」という感じで、1ヵ月くらいずっと電話をしていましたね。600社くらいはかけた記憶があります。
─ 営業の成果は出ましたか。
武田 「詳しい話を聞きたい」と言ってくれるところは結構あって、30〜40社は訪問しました。最終的に成約まで持っていけたのは0件だったんですが。
─ それは残念でしたね・・・。
武田 でも、今思うと、僕にとってはそこで仕事の基礎ができたんですよ。自分ではわかっているつもりでも、人に話してみたら、自分の理解の浅さを思い知らされることってありませんか。あるいは、自分の理解とはまったく違う解釈があることに気付かされるとか。僕の場合は、あの時に電話営業を繰り返したことで、「ああ、こうやって頭の中で整理がついて考えが洗練されていくんだ」ということを実感できたんです。
─ なるほど。いろいろと悩んだ末に、600件の電話を愚直にかけ続けたからこそ得られた経験ですね。
武田 本当に、人生に無駄なことなんて一つもないと思います。まあ、もう少し器用にその境地に辿り着いてもいいような気はしますけど(笑)。
まずはやれることをやっていこうぜ。
─ 入社から約10年、これまでに手がけた仕事で代表的なものといえば何になりますか?
武田 いろいろとやってきましたが、1つに絞るなら、やはりテックプランターの立ち上げを丸さん、篠澤さん、長谷川さんと共にやったことですね。アカデミアやベンチャーが持つ科学技術の種を発掘し、事業化を推進して発芽を促す。そうして社会実装し、世の中の未解決な課題を解決するところまで持っていく、というプロジェクトです。
─ これまでに発掘したベンチャー企業は1000社を超えるとか。
武田 いえ、日本国内だけで2000社ほどで、海外もすでに1000社を超えています。テックプランターは東南アジアを中心に海外でも展開しているんですよ。
─ ものすごい数ですね。
武田 ただ、先ほども触れたように、テックプランターの目的は単なるベンチャー発掘ではありません。目的はあくまでその先の社会実装や課題解決です。その意味では、このプロジェクトに大企業を巻き込んでいくことも大きな要素となります。大企業には、自社の事業に活用されずに、埋もれたままになっている技術やアイデアが結構あります。そうしたアセットを洗い出して、テックプランターで発掘したベンチャーと組み合わせることで新たな「業」を創り出すことが醍醐味ですね。
─ 東南アジアでのテックプランターは武田さんが中心になって進めたものですか?
武田 はい、現在はASEAN6が中心ですが、最大で10カ国まで展開しました。そういえば、そのときに活きたのも、かつての電話営業の経験です。相手がシンガポールでもマレーシアでも、初めての相手と何かを一緒にやりたいと思ったら、まずは話をしてみるしかない。こちらからコンタクトを取らなければ、何も始まらない。そうやって一つずつ積み上げていったのが、海外ベンチャーとのつながりです。
─ では、最後に1つ真面目な質問を。武田さんは入社からほぼ10年になりますよね。それだけ長くリバネスにいる理由を教えてください。
武田 それは、やっぱり仕事が楽しかったからです。あと、周囲の人には「そんなことを思っているようには見えない」と言われるんですけど、僕はここで一緒に働いている人たちが本当に好きなんですよ。
─ 例えば、どんなところが。
武田 基本的にみんな、前向きなんですね。リバネスは常に新しいことを仕掛けているので、当然ながら、壁にぶち当たったり、にっちもさっちもいかくなることもあります。そんなときでも絶対に逃げたりしないし、まずはやれることをやっていこうぜ、というスタンスなんですよ。そうやって何とか打開策を見つけて、やり遂げようとするわけです。
─ そんな人たちに囲まれているから、自分も頑張りたいと思う、と。
武田 そうですね。僕も40代なので、これからはリバネスグループ全体のことを考えて、リバネスがさらに先に進んでいくための推進力になれればと思っています。ただ、リバネスって、指数関数的にスピード感が上がっていくんですよ。正直、いまだに「ついていけている」という感覚がありません。なんというか、もっと器用になりたいなぁと思います(笑)。(2022年6月23日時点)
武田隆太(たけだ・りゅうた)/米国オハイオ州立大学にて植物RNA病原体に関する研究を行い、Ph.D.取得。2011年よりリバネスアメリカの立ち上げに参画し、2012年にリバネス入社。人材開発事業部部長、国際開発事業部部長、グローバルブリッジ研究所・所長を歴任。2013年以来、国内でシードアクセラレーション事業として立ち上げた「TECH PLANTER」の海外展開を推進している。現在は、海外のベンチャーエコシステムのキープレイヤーのネットワークを活かし、特に東南アジア諸国の政府系機関やベンチャーと連携した事業立ち上げに携わる。
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